日本における"ギャップイヤー元年"の様相
JICA地球ひろば講堂(300名収容)が満席となり、立ち見が出た。冒頭、プロジェクト実行委員会の青 晴海委員長(JICA青年海外協力隊事務局 次長)が、「日本社会には取り組むべき課題が多く、それらに立ち向かっている若者を積極的に評価し、これに続く若者を育てるためにもギャップイヤーの制度構築が求められている」と挨拶した。基調講演はアライアンス・フォーラム財団代表理事の原 丈人氏で、「震災後に求められる日本人の人材像」をテーマに日本の若者を勇気づけた。
NHK早川解説主幹が若者とパネルディスカション
その後、NHK解説主幹の早川信夫氏がファシリテーターになり、若手ギャップ経験者(ギャッパー)4名とパネルディスカションに移った。「ギャップイヤーで得たこと、今にどうつながり、今後どう生かしていくか」がテーマに議論となった。休学が1年延びたにも関わらず、2年連続同一商社から「内定」を獲得し、人材として高く評価されたエピソードも披瀝されるなど、世界を駆け巡りチャレンジあふれる青年達の元気さが聴衆に伝わり、会場は一気になごんだ。
JGAPがギャップイヤーの現状と世界の先進学術研究を解説 "ギャップ経験者が非経験者より就学・就業力が上回る"
引き続き、ギャップイヤー支援組織がそれぞれ登壇した。JGAPの砂田 薫代表理事は、2月に設立された一般社団という民間団体で、ギャップイヤー導入の"私設応援団"を自負していると述べ、「先進国の高等教育機関の"標準装備"になりつつあるギャップイヤーを、日本の大学生誰もが望めば経験できる国を目指す」とビジョンを示した。
また、昨年世界教育心理学会の査読論文となり、米国で注目されているシドニー大学のアンドリュー・マーティン教授の論文内容を紹介した。「高校卒業後のギャップイヤー経験者が、非経験者より、大学入学後の就学モチベーションや、企画力・適応能力・忍耐力が高い」という実証研究(標本数:豪高校卒業生2500人)を発表したという。今後これが契機となり、米国ではハーバードやMIT、プリンストン大など既に推奨しているトップ大学群(年間3,000人レベル)から一気に全米各地に広がる予測をした。
英国企業は大学新卒採用において、学位よりギャップイヤー重視 "世界標準"でない日本はどう考えるべきか?!
一方、英国では、今年1月にピーター・スロー博士(前オーックスフォード教授、トニーブレイヤー首相の経済政策顧問)が発表した「英国企業経営者(250社)の6割が、大学新卒採用について、学位(degree)よりギャップイヤー経験の内容重視」という注目すべきアンケート結果に言及した。ギャップイヤー文化がまだない日本の大学や企業はこのデータをどう解釈するかを問うた。
最後に、高等教育の国際競争力低下防止の観点からも、日本の大学はギャップイヤー導入を真剣に考え、社会(採用企業・市民)は若者のギャップイヤー経験を温かく見守り、正当に評価し、行政は導入を奨学金のような形でも助成や補助で支援する、そのようなオール・ジャパン体制を執ることが、若者が萎縮して"内向き志向"に陥る現状から、明るい日本の未来につながると結んだ。
重要となってくる高等教育に組み込むためのギャップイヤーの定義 従来の個人の中長期の放浪等とは当面一線を画す
登壇後、砂田氏は、JGAPが英国で40年以上ギャップイヤーを支援している非営利法人Lattitude Global Volunteering(CEO Paul Pompani氏) から、一様でないギャップイヤーの定義についての示唆に富む情報提供を受けていたことを詳細に語った。それは04年に、英国教育技能省(現・教育省)がロンドン大学のアンドリュー・ジョーンズ教授に委託し、人気が高まるギャップイヤーの現状や効果を調査した報告書である。英国ではギャップイヤーは、期間はa year(1年)にこだわる概念でなく、約3ヶ月から2年をめどとし、内容は親元離れた非日常の中での「インターン(就社に直結しない)・ボランティア・国内外留学(課外)」のほか、広義には中長期の個人の放浪やトレッキング・一般旅行など"牧歌的"なものも含まれるという。
日本版ギャップイヤー(Jギャップ)の定義は、"親元離れ非日常の中でのインターン(就社に直結しない)・ボランティア・国内外留学"
砂田氏はギャップイヤーの定義について、「協会としては、日本にギャップイヤー文化が認知されていない現状の中、勤勉な日本ではまず"牧歌的な旅"は、教育の現場で教員や親に理解・共感されるとは考えにくく、狭義である前者を中心に働きかける」と語った。「そうすれば、高等教育現場で単位認定に係る場合も、教員間でコンセンサスが得られやすく、妥当。論点である"旅"の広範な概念も、後付でも"課題設定"あるワーキングホリデーやバックパックはギャップイヤーの定義とみなしていく。 いわば目的持った調査の旅は狭義に組み込んでいく。
JGAPが提唱する『日本版ギャップイヤー(愛称:Jギャップ)』はこの定義で国内にまず浸透させ、3要件を網羅することを推奨し、慣習・文化として定着させたい。それがプレゼンの最後のスライドの "かわいい子には、(目的持った)旅をさせよ" の含意。例えば、放浪などは現状でも日本に存在するが、教育現場で賞賛・推奨されることはまずない。狭義のギャップイヤーを推進していくのは、いわば戦略上のファーストステップであり、広義のギャップイヤーが文化として日本社会に認知されるまでの過渡的な位置づけといってもよい。例えば、マーケティングという言葉でも10年単位で、協会は定義の見直しを図っている。当面この定義で"ブランド管理"し、似て非なる商業目的の類似旅行商品は、ギャップイヤー文化推進を阻害するものであり、一般生活者や大学生に対し、注意喚起していく。
日本でも、今後大学が旅行業者やNPOにプログラムを作成してもらう"修学旅行的"ケース、大学側がタスクチームで自ら独自プログラム化するケース(プリンストン大型)、そのハイブリッド型、大学がギャップイヤーを個人研修として位置づけ計画を承認していくケース(秋田・国際教養大型)、また本格的な参加者個人計画型(これは入学延期や休学をし、誰でも自由にできる)に分かれるだろう。
プログラムが休学を要するものか単位認定されるか、また、単なる個人旅行商品の域を出ないのに顧客誘引の手段で単に"ギャップイヤー"と呼称しているだけだとか、利用者が見極める材料も多くなるので、注意も必要」と締めくくった。
国際教養大学の英国伝統型ギャップイヤー制度と東洋大学社会学部のギャップイヤー本格導入
参加した学生に感想を聞くと、笑顔で「自分で切り開く夢を感じ、やる気が出てきて、すっきりした気分になった」「これから何か始めるきっかけになると思う」という声が聞かれた。日本で最初に英国伝統型の大学就学前ギャップイヤー制度を取り入れた国際教養大学が全国から注目を集める中、東洋大学社会学部では、来年の入学者から履修条件をクリアして計画書提出後指導を受けた学生は、大学を離れて(=ギャップ・イヤーまたはギャップ・セメスターと呼称)、国内・海外において関連する活動(「社会文化体験特別演習」・「社会文化体験特別研究」)をできる道を開いた。この演習・研究は「フィールドワーク分野(エコツアー)」「社会貢献分野(福祉・環境保全等の支援)」「キャリア分野(インターン)」を軸にしており、まさにJGAPが推奨する「日本型ギャップイヤー(=Jギャップ) 」を体現するようなプログラムになっている。
満員でしかも活気に満ちた300名のシンポジウムは、後から観ると、日本における"ギャップイヤー文化"構築にとって、大きな一歩であるかもしれない。
※当該発表のスライド(簡易版)は、「ギャップ総研」の文献、資料5に格納されていて、ダウンロードできる。
ギャップイヤー・シンポジウム


