ギャップイヤー・ジャパンからのニュース・お知らせ

 2012年5月31日に、JGAP1周年記念「明日の高等教育の可能性を"親子"で考えるセミナー」が築地・朝日新聞東京本社「読者ホール」で行なわれました(主催:一般社団法人JGAP 後援:朝日新聞社教育総合センター)。
 以下は、多くの読者の皆さんから要望が高かったセミナーの冒頭で行なわれた熊平美香氏の講演要旨です。267学長1.jpg

「次世代の青年が世界で生き抜くための教育力とは?」
プレゼンター:熊平 美香氏(日本教育大学大学院学長)


 「日本の教育が世界から取り残されている」ということに対して、私は非常に危機を感じています。世界各国では、ある国でおきた教育の変革が他の国にも派生していく、という事態が多く起きているのですが、日本の教育だけは30年前と同じような状況です。今日はみなさんとそういった問題意識を共有できればと思います。

<義務教育と高等教育に求められるもの>
 まず原点に返って、義務教育についてお話ししたいと思います。義務教育に求められるものは何か。それは学力保障です。たとえば、小学校で九九ができない子どもたちが大人になると、契約書すら読むことができず、人にだまされるリスクを負って大変な生涯を送ることになってしまいますよね。そういう人たちを作らないように学力を保障する、ということが義務教育に求められています。

 それでは、高等教育は何を保障してくれるのでしょうか?
高等教育で学ぶことができるのは一部の恵まれた人たちです。そういった人たちに保障されるべきものは、知性と人格ではないかと思います。具体的には、社会が高等教育に求めるのは「社会の発展に寄与する人材の輩出」。そして、学生が求めるものは、「意義ある人生を送るための力」ではないでしょうか。

 では、なぜ今こんなに大学教育が問題視されるようになったのでしょう?
それは時代が大きく変わったからです。この問題を考えるうえで重要なのは、これまで私たちが大学に何を期待していたのか、そしてこれから何を期待していくかを認識することだと思います。

 これまでの大学への期待というのは、「優良企業に就職するための資格の取得」、そして「モラトリアム」。このふたつでした。その前提には卒業後に終身雇用を前提に就職できる、ということがあります。

 一方、不確実で変化が激しい時代となった今、終身雇用の資格を得ても幸せは保障されません。今日では学生は、この変化の激しいグローバル社会で幸せな人生を生きる力を必要としています。そして社会も、持続可能な社会の発展に寄与してくれる若者を切に求めています。新しい時代になったことによって、大学に対する期待がいままでとまったく変わってしまった、といえるでしょう。


<新しい時代のキーワード、そこで必要となる能力>
 これからの日本は「脱工業化社会」です。これまで、日本の教育は工業化社会を支える有能な人材を輩出し、日本の経済を発展させてきました。具体的には、ヒエラルキーに従う組織行動、従順に上司の指示に従う存在。先生の言うことを素直に聞く生徒。あるいは画一性、生産性、効率とスピードを実現するための人材。そして何よりも勤勉で質の高い情報処理能力。これは日本の工場現場の品質管理を支えてきた大きな力です。

 こんなすばらしい教育をこれまでしてきたのですが、いま教育界に響いているのは「脱工業化社会においても有能な人材を輩出してほしい」という叫びなのです。よく「指示待ち人間が多いんだよ」と耳にしませんか?でも、これまではそれでよかった。指示に従って正しく行動することが求められていたのです。

 もちろん日本でも教育の改革はこれからの大きな課題ですが、日本だけでなく世界中で教育は今、変革の時期を迎えています。その背景となった新しい時代のキーワードを3つお話しします。

 ひとつめは「変化とスピード」。技術革新によって私たちはたくさんの新しいライフスタイルを手に入れました。一方、新しい技術革新に乗り遅れてしまうと非常に生きにくい時代になります。単純な情報処理はコンピューターがやってくれるので、人間は人間にしかできない創造性を駆使した高度な情報処理能力を発展させることが求められます。

 そして、2つめのキーワードは「複雑」。いろんなことがテクノロジーの進化などであきらかになっている今、専門性はどんどん深くなっていきます。また、ひとつの専門だけで何の問題も解決できないような時代でもあります。
例えば、「発展途上国の医療問題」という大きなテーマ。その解決のためにはビジネスの観点、行政の観点、医療の観点と複数の専門性が融合することが必要です。人々には専門性をより深め、知を融合させる高度なコミュニケーション力が求められるのです。

 3つめのキーワードは、「相互依存」です。持続可能な経済成長も、環境問題の解決も、日本の力だけでは実現できません。こうなってきますと、地球全体をひとつのシステムとして考え、あるいは国境を越えてリーダーシップを発揮できる力が必要となります。


<これからの若者に求められるリーダーシップ>
 私はリーダーシップを専門に教えていますので、その分野で若者に求めることをお話しします。
まず期待したいのが「リスクをとる」ということです。「実績がないから」という理由で日本で導入を却下された新しい技術が、韓国に持ち込まれて導入されたということが何度もあったそうです。その結果どうなったかというのはみなさんご存じですね。実績のないことを選択する、前例がなくてもやってみるという力がこれからは求められます。安全を第一にする環境ではリーダーシップは育ちません。

 それから、「大きな目標には大きな壁がある」ということを我々全員が認識すべきだと思います。人間は本気で高い壁を超えようとするとき、恐ろしいほど創造性が高まって自分でも知らなかったような力を発揮できるのです。しかしそれは一人ではできません。集団で壁を超えていく力が必要です。

 不確実な今の時代のリーダーとして、GEのイメルト会長のメッセージをみなさんに紹介します。ハーバード・ビジネススクール100周年の会で彼が発言したことなのですが、ちょうどリーマンショックのすぐ後でした。
「9.11、リーマンショックと次々予想外の出来事が起きる。でも自分は、32万人の社員の前に立ち頭を抱えて『僕はどうすればいいのかわからない』とは言えない。だから、決断して、行動して、間違ったら軌道修正するしかない。毎晩反省する。でも、朝には自信満々の自分になるんだ」。反省はしても、自分の自信を失うことはない。ポジティブに元気に。こういう人がこれからの時代のリーダーだと思います。


<自分の軸を持つために>
 世の中が複雑になって、人生の選択肢がものすごく広がっています。その中で少なくとも自分の心が安定した人生を送るためには、そうとう自分の軸がしっかりしていないといけません。

 いままでは、会社に入って働いてさえいれば、ある程度安定した生活ができました。でもこれからは、周りの環境を安定させるのは難しいのです。そうすると、自分の心の中にしっかりとした軸をつくり、自らを安定させるということが大事になってきます。そのために自分を知り、自分で選び、自分で行動する機会を少しでも多く作っていくべきです。

 現在の日本の学校教育では、10代の子が自分の道を自分で選択するという環境がなかなかありません。社会に出てから突然リーダーシップが育つわけではありません。社会人になる前にそういった機会を与えるために、ギャップイヤーのような体験はとても大事だと思います。私もその変革を応援していきたいと思います。