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JGAP寄稿者短信:「米国大学での私の博士課程スケジュール(1セメスター目)」(中込 翔、ヒューストン大学博士課程)

 アメリカで博士課程を開始して早1ヶ月。割りとすんなり現地に馴染んでやっております。

 現在の1週間のスケジュールはこんな感じです:


My Schedule
米国大学院.png


ちょっとずつ解説していこうと思います。


<授業について>
 まず黄緑の欄を見てください。午前中に固まっていますね。これ授業です。「え1?たったこれだけ!?」と感じる方もいるでしょうがこれで普通です。フルタイムで働く博士課程の学生は1セメスターに12単位授業を取る必要があるのですが(学校によってよりにけりなので少なくとも僕の学校では)月・水、火・木と1週間に2回ずつある授業がそれぞれ3単位ずつ、金曜日のセミナーが1単位で7単位。あとの5単位は研究用として博士課程や修士課程の学生に課せられる必須の単位です。ちなみにすべて大学院用の授業です。

 月・水にあるRobotics in Healthという授業は凄まじくハードですが最高に面白い授業です。4歳から8歳までの何らかの病気や怪我により足に痺れや麻痺を抱えてしまった子供たち向けに外骨格(Exoskeleton)を作成する授業です。うまく行けばこの授業単体で論文も書きます。毎週授業以外にも8時間〜12時間ほどの作業が必要で、現段階では知識のインプットおよびチーム作りが中心ですが、3Dプリンターなどの最先端技術の使い方を学んだり、外骨格作成の費用を取得するためのProposalを書いたりと今までにやったことがないことが多いですがその分得るものも非常に大きい授業です。

 火・木にあるディジタル信号処理や大学での信号処理授業の延長線上にある授業で、MATLAB等のソフトウェアを使い実際の信号を理論に基いて処理・理解していきます。現段階では復習中心ですが後半のプログラミングに希望をもって耐え忍んでいます。ちなみに1200ページほどある教科書を使っているのですが1週間に100ページ以上進むので予習がなかなか大変です。

 補足:よく言われる「アメリカの教科書は高すぎる」という現象は確かにここヒューストンでも見られるのですが、最近はインターネットの発達により、教科書のPDFをネット経由で入手するという学生が非常に多い印象です。なので授業風景を見ているとiPadやタブレットに教科書を入れて持ち込んでいる学生が多いことに気づきます。教授たちも特に気にしている様子もなく、PDFを無料ダウンロードできるURLを提供してくれる先生や先生自体がネットで落とした教科書を使っている人もいるそうです。

 金曜日は学術発表の技術を学ぶためのセミナー。アメリカではみなプレゼンテーションがうまいというイメージがありますが何も一朝一夕で身につくようなものでもなく、こうした授業で何度も練習を重ねてうまくなっていくということがよくわかります。


<研究について>
 大きく紫で塗っている欄が研究室での研究関連の仕事です。ここらへんは研究室によって違うので一概には言えないのですが、僕の研究室では1人で研究するということはまずなく、すべてがチームで動くプロジェクトベースの研究室となっています。研究している分野自体が多分野との融合を必要としていることにくわえ、ポスドクが3名、博士課程が15名以上いる巨大なラボゆえにそうなっているのかもしれません。

 僕も入ってすぐ2つの研究プロジェクトに使命されました。合格した時点で教授の頭の中には「この子はこういう技術を持っているらしいからこのプロジェクトにいれよう」と考えているらしいです。僕はアプリ作成経験やソフトウェア技術が強かったのでそうしたプロジェクトにアサインされました。

 ちなみになんの研究やってるんだよ?という質問も多く受けるので簡単に答えておくと、僕達の研究室は非侵襲的ブレインマシンインターフェイスという分野の研究を行っています。非侵襲的とは人体を傷つけることなく、脳(ブレイン)と機械(マシン)を直接繋げるインターフェイスの研究・開発を行っていると考えてもらえるとわかりやすいかと思います。僕達がよく取るアプローチとしてEEGと呼ばれるヘッドセット(僕のFacebookのプロフィール写真でかぶっているもの)を頭にかぶせ、脳波を取得し、脳のインテンション(やろうとしていること)を察知し、周りにある外部の機械(外骨格やコンピュータ)を動かすというものです。今はみなさんスマホとかを指で動かしていると思いますが、それって結局は

 脳から信号を送る→指を動かす→指がスマホにタッチして操作できる

 ということで、これって言ってみれば2番目の手順が蛇足なんですよね。

 脳から信号を送る→スマホを操作する

 になったら良いと思いません?そんな夢のある技術の実現にむけて日々研究を行っています。

 土曜日にやっている美術館での実験はその実現のための1つのステップで、ここで詳しく英語で書かれているのですが、ワイヤレスかつかぶるだけで脳波を取得できるEEGヘッドセットを使って、とある美術品を見たときの人の感情の起伏や変化のデータを集めています。

<ヒューストン及びヒューストン大学について>
 僕の通っているヒューストン大学はNASAなどの航空宇宙産業の盛んな都市ヒューストンに拠点を置く大学です。航空宇宙産業のイメージが強いせいか、ヒューストン自体をアストロシティと呼ぶ人もいます。日本の梅雨のじめじめ感なんて可愛く見えるほど湿気が半端無く、かと思えば建物内は常に冷房で23℃ぐらいなので外気温度差が10℃以上あるのも特徴的です。空調のせいで建物の中はカラッカラに乾いているので保湿器がないと朝の目覚めが非常に悪いです。周りはまだあまり散策できていないので後日書きます。(実を言うとほとんどキャンパスが出ることができてないほど忙しいですww)

 ヒューストン大学はまだほとんど無名の大学ですが、近年エンジニアリング部門で台頭してきている大学で、特に国際色が豊かな大学です。インド、中国などからの学生はもちろんのこと、メキシコなどの南米に近いのでブラジル、メキシコ、ペルーなどからも大学生・大学院生が入学してきています。僕の研究室だけでも7カ国から学生が学びに来ています。
ゴメス体育館.jpgのサムネール画像
 施設もまだ散策しきれていないのですが、僕がとりわけ気に入っているのがジムで、各種トレーニングマシンはもちろんのこと、プールに、15m以上あるボルダリング、バスケットボールコート、陸上トラック、スカッシュコート、バドミントンコート、ダンスルームに温泉までなんでも揃っています。

ゴメス体育館2.jpg

<寮>
 現在僕は1人のルームメイトと寮に住んでいるのですが、ここもまた素晴らしい環境です。見晴らしの良さもさることながら、各階に洗濯機と乾燥機が付いており、それぞれの部屋にはキッチン、冷蔵庫、食器洗い機、Wi-Fiまで就いています。月額850ドルと少々高めですが研究室まで徒歩4分ということもあり、しばらくはここを拠点に頑張ろうと思っています。

 ちなみに今少しずつ家具を揃えているところですが勉強する環境だけはちゃんと整いました。もう一個机は買おうかと思っていますが・・・

 またせっかくキッチンも付いているので今はほぼ毎日自炊で頑張っています。ルームメイトが車を持っているので週末にウォールマートやHEB、ホールフーズなどに行って食材を購入し日々いろんな料理に挑戦しています。自炊するようになって自炊の楽しさ、安さに気づき現在iPadを片手に包丁をふるう毎日です。
ゴメスのデスク4.jpg

<これからアメリカに住むことになる人達へ>
 僕のように博士課程でアメリカに来る人達のために少しアドバイスを。

①給与はすぐには出ません。でも寮の費用は最初からガッツリ取られます。
 余裕を持って資金を持ってきましょう。日本のクレジットカードがあると最初は本当に助かります。僕は月額1800ドルほど貰える予定なのですが、まだ給与は入ってきていません。

②車がないと本当に不便。
 アメリカは広いです。360度地平線が見えるのはアフリカに行ったとき以来です。逆に言うと移動手段がないこっちに来たばかりの学生は車を持っている現地の友達を作らないと厳しいです。自転車は便利っちゃ便利ですがさすがに10km超えるときついです。

③SSN(社会保障番号)は早めに作ろう。携帯はさっさと契約しよう。
 こっちでは何をやるにもいちいち求められるものが2つあります。それがSSN Numberと携帯の番号です。SSNは学校での説明をよく聞いてさっさと書類を書いて近くのSSNオフィスに持っていくこと。携帯はSIMフリーの携帯とかを持っていると月額プリペイドカード契約とかができるので早めに番号を取得しましょう。

【追記】
 銀行に関してはうまくタイミングを合わせた方が良いです。というのも例えば僕が契約したChaseバンクでは給料などの収入が見込める場合、手数料などのカットなどのプランに加入出来るのですが、給料が入らない月は手数料がかかってしまうので給料が入る月のタイミングに合わせて口座を開くと良いかと思います。ここらへんはまた別途詳しく記載したいと思います。

④金が絡む問題はさっさと解決する。
 保険、給料、支払いなどなど生活のはじめには何かとつきものののお金の問題。アメリカの博士課程は学費も免除してくれるし、医療保険等も払ってくれ、給料も貰えるんだけれども、システムがザル。免除から漏れていたり、額が違ったりととにかくエラーばっかり。こういったことはケース・バイ・ケースなので何度も学事に通って解決するしかないです。受付のおばちゃんはうんざりしているので対応がダメな時があるので、そういうときは自分の学部のヘッドの部屋に直接乗り込むのが吉。アメリカはとにかく権力が上の人のところへ直接行きましょう。もちろん自分を雇ってくれた教授も大いに助けてくれるので遠慮なく分からないことは聞きましょう。

⑤日本人とつるむな
イ ンド人はまだいいんです。でもキャンパスではよく中国語で話している中国人を見かけます。中国人が多すぎるからです。またそういう人ほど英語が上達していないのでアメリカに数年いても片言であることが多いです。自分と故郷を同じくする人たちは何かと気が合いやすいものですが、アメリカに来たのならば郷に入っては郷に従え。英語を練習する意味でも現地の人や外国の人とつるみましょう。幸いここヒューストンにはあまり日本人がいないのかこれまで数人しか出くわしてません。たまたま同じような考え方の日本人がいて、彼とは英語で話していました。僕はかくあるべきだと考えています。またせっかく外部の人と触れる機会なので日本人といてもつまらないじゃんというのが本音でもありますw 海外生活が長いゆえの主張かもしれませんが一意見として聞いてもらえたら幸いです。

⑥夜は出歩くな
 アメリカは先進国とはいえ、銃の携帯も許されているし、犯罪率も決して低くない国です。特に夜は危険なので出歩かないようにしましょう。といってもまあエンジニアリングビルディングなんかは24時間明るく活動的ですしキャンパス内は比較的安全といえば安全なので気に留めておく程度でいいかとも思いますが。現地の友達と仲良くなって危険そうな地域の情報は積極的に仕入れておくといいかと思います。また自転車で数日かけてそこら辺を昼に回ればある程度危険そうなところは察知できると思うので散歩は機会があればぜひ。

⑦自炊用具一式+食器
 自炊をしようと考えている人は持ってくるものが増えるかもしれません。ルームメイトがいればあらかじめ相談して揃えましょう。食器はマジで重要です。あと以外と忘れがちなのがラップとかジップロック、キッチンタオルなどなど。寮についたら真っ先に揃えたいものです。(ちなみにアメリカのラップはマジで質が悪いので最初は日本式の持っていくと良いかも。というか日本からこちらに来る人は日本のラップをお土産に持ってくるとこっちにいる日本人は泣いて喜ぶかも)

他に何か聞きたいことがある人はいつでも連絡ください。


んじゃまあまた研究生活に戻ります。

2014年8月16日付
エッセイ集 フロンティア・フォーラム No.178:「自分の中に羅針盤を持つということ」(中込 翔さん、ヒューストン大学博士課程)http://japangap.jp/essay/2014/08/why-do-you-do-that.html

ブログ「How I walk ゴメスの歩き方」:http://shonakagome.com/