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JGAP寄稿者短信:「『君のキャリアパスを教えてほしい』と教授に言われた!」(中込 翔、ヒューストン大学博士課程)

 先日教授に呼ばれ、彼のオフィスを訪れた。彼が居る時はいつも扉は開け放たれており、僕の姿を見るや否や屈託のない笑顔で

"Hi Sho!"

と呼びかけ招き入れてくれた。僕も彼を下の名前で呼び、挨拶を交わす。こうしたフラットな関係は個人的に非常に気に入っている。

 他愛のない世間話から研究の進捗状況を伝え、一段落着いたところで教授の顔が少し真剣になった。
「ところで今日もう一つ話しておきたいことがある。」
何が飛び出すのかと身構え集中力が上がる。

 「そろそろこちらでの生活も落ち着いてきた頃だろう。
今日のもう一つの話というのは君の将来のキャリアについてだ。
まだ博士課程に入ったばかりかもしれないが、君の将来のことについて話し合いたい。
君はどういうキャリアパスを思い描いている?
アカデミックに残るのか、インダストリーに行くのか。
それによって君がこれから取る授業、会わせる人、研究の主題、共同研究先、等々決めていきたいと思う。
これは君の将来に関わることだから非常に重要だ。
故に博士課程をはじめたこの時から少しずつ君を話を進めていきたい。」

 しばらく彼の会話に聞き入ってしまっていたのか、すぐに反応を返すことが出来なかった。
正直感動していた、と言ってもいいだろう。
僕は「そこまでしてくれるのか」と驚きを隠さずにはいられなかった。

 その場で即答しても良かったのだが、話が話なだけに、今一度自分が思い描いているキャリアパスを熟考し、まとめ、昨日再び教授を訪れた。

 「ここで博士課程を取得後はアメリカでグリーンカードを取得してここで働きたいと考えています。
大企業よりもスタートアップを手段としては考えていて
最終的な目標としては◯◯のような世界の実現をしたいです。」
と僕が現在抱いている思いを率直にぶつけてみた。

 正直まともに取り合ってもらえないんじゃないかとも思っていた。
少なくとも日本のアカデミックのやつらはそうだった。

 しかしそんなのは杞憂だった。

 僕が話している間、真剣に聞き入ってくれた彼の眼差しは今後忘れることはないだろう。
まっすぐ僕を見つめ、僕を信じてくれているということを目で伝えてくれているかのようだった。

 「それは面白い。ぜひとも頑張って欲しい!となるとおそらくこの博士課程における研究過程においてはIP(特許)等も取得しておいた方が良いだろう。
 そのために君にはいくつかプロジェクトを考えておこう。ともすれば現在他の会社から頂いている製品を利用するのではなく、君自身に新しいものを創りだしてもらうかもしれない。

 スタートアップを目指すにしてもコネクションは持っていて損はない。企業側の人間との繋がりはこれから積極的に紹介していこう。
 アメリカでやっていくのならばFDAとも仲良くしておいた方が良い。ちょうど来週そこからポスドクが来るから彼とよく話して仲良くなっておくんだ。

 その他にもこういう会社で誰か紹介して欲しいということなら遠慮無く言って欲しい。なんとかコネクションを見つけてつないであげるから。」

 こうした真摯な対応を1人1人の学生と彼は行っているのだろう。博士課程が10人以上、総勢20人以上いるうちのような巨大なラボでこうした1人1人への対応というものは想像を絶するほど大変に違いない。

 だけどこうした面倒見の良さが彼に対する信頼感へと繋がり、研究結果しいては尊敬の念へと繋がっているのだと僕は思う。

 もちろんアメリカではすべての研究室がこういうふうになっているというわけではない。中には学生をボロ雑巾のように使い古すだけの教授もいるそうだ。日本であってもそれは同じだろう。

 ただ僕はこうして渡米し、彼のような教授に出会え、彼の元で多くの同士たちと日々研究に励めることを心底幸せに感じている。


2014年8月16日付
エッセイ集 フロンティア・フォーラム No.178:「自分の中に羅針盤を持つということ」(中込 翔さん、ヒューストン大学博士課程)http://japangap.jp/essay/2014/08/why-do-you-do-that.html

ブログ:「How I walk」http://www.shonakagome.com/