「"自分を見つめる"という旅」(白井 耕平さん、武蔵大学=世界一周中)
落雷の轟音と共に、うず高く積った灰色の雲から雨が降り出した。
3600mの高地は夏でも肌寒い風が吹きつける。
地上と空の境が無くなって、世界が青い光と白い大地、
そして幻想的な雲に包まれたあの光景が
2日経っても網膜に焼きついたままだ。
限りなく広がる塩の大地に薄く張った水が空を映し出し
ランクルに乗り込んだ僕ら7人は、まるで空の中に放り出されたかのようだった。
いつもは上空にしかいない太陽でさえ、この時だけは足元に広がる"青空"にも現れていた。
「死ぬまでに1度は行きたい場所」と評される、ボリビアのウユニ塩湖
そこに立った時、感動したことはもちろんだが
同時に、そのどこまでも続く青と白の光の中に、日本を見た。
南アフリカ、アルゼンチン、チリと飛行機を乗り継いで訪れたボリビアが
実質最後の国だった。
この絶景を見るためだけに来た、と言っても過言じゃない。
旅全体の最終地点、というところだろうか
「あとは、帰るだけだ」
同じグループの、とある社会人バックパッカーとそう言い合った。
3月21日、冬の冷たさの中に春の匂いがしたあの日
茨木空港から上海へと旅立ったあの時から
もう11カ月が経とうとしてる。
坊主頭でアゴがつるつるだった当時の19歳らしい面影は
どうやらこの旅の中で消え失せてしまったらしい。
茶色がかった前髪は目を覆うほど伸び散らかり
アラブ人に劣らないほどアゴ髭も生えた。
「19才には見えないね」
と、何度も色んな人から言われた。
外見なのか、それとも中身なのかは人それぞれだったようだが
僕が見る僕自身は同世代の大学生たちとなんら大差ない、ただの19歳だ。
大学生にありがちな悩みも、そして甘ったれた部分もたくさんある。
「随分背伸びしてるのね」
海風が心地よく吹きぬける夏のダハブ
セブンヘブンという宿の屋上で日本食屋をやっている
日本人のおばあさんに、そう言われてから
薄々気づいてはいたものの、自分の足が地に着いてない事を自覚した。
何が等身大の19歳で、何が大人で、何が自分らしいのか
出会う人々の言葉の渦の中に巻き込まれて見えなくなっていた。
自分の経験値や軸がこれほどヤワで、ブレやすくて、薄っぺらいモノだとは
日本を出なければ絶対にわからなかった。
間違いなく何かができる、何かを知ってる、そんな気でいただろう。
そんなにわかな僕がそれまで旅をしてきて、更に増長していたわけだ
多分あのおばあちゃんの目には若気の"危うさ"さえ見えたかもしれない。
とにかく、エジプト以降ずっと「自分とはどんな人間なのか」という問いを抱えて
西アフリカ行きの準備を進めていた。
特にモロッコのトドラ峡谷で過ごした2週間はすごく重要な時間だったと思う。
宿のベランダから見える聳え立つ崖の上に散りばめられた星空を見上げながら
その問いについて考え、そしてこの今まで細々と繋げてきた自分の人生を手繰り寄せた。
辿り着いた答えは、単純な感情「生きてる実感」それのみだった。
サッカーをやっていた時の、好きな女の子がいた時の、
あの情熱が沸き立つ瞬間が最も"自分らしい"と思えた。
だからモロッコから西へ、そして南へと突き進む道に躊躇なく踏み出した。
それが一番、生きてる気がして、自分らしい気がしたから。
西アフリカについては前々回の記事で書いたが
あの地域を抜けてきて、僕がどう変わったのか
そもそも変わるのか?自分では見えずらい部分がたくさんある。
でも確実に精神的にタフにはなっただろう。
恐怖や自分の弱さと向き合い続ける事は出来たと思う。
そして、元々見えていて、旅の中で一度見失ったモノを
今、僕は、自分の中に、確かに、掴んでる。
また手を離してしまうかもしれないけど
でも掴み方はこの旅で覚えた。
深夜特急の沢木耕太郎だって、自分の心が就職ではなくて旅だったから
あの雨の日に、スーツが濡れないために傘を差さなきゃいけない事を拒否した。
アルケミストの主人公だって、羊飼いではなくてピラミッドの夢を信じたかったから
タンジェの港で、全財産を失っても進み続けた。
要は「心」が強烈に惹きつけられる方向へと
信じればいい、足を運べばいい、人生を賭けてみればいい。
今、僕は自分が「生きてる」という実感を掴んでる。
西アフリカ4カ月に人生を賭ける、なんて
たかが学生の遊びみたいな旅、なんて
ちゃんちゃらおかしくて、勘違いかもしれない
でもそのちゃんちゃらおかしい勘違いをした僕は、
"自分の心の声を聴く"
という僕だけの人生の指針を見つけた。
自分から目を逸らさずに、外に自分を探さずに、
旅の中で"自分の内側"を見つめ続けた、その結果だ。
僕はまだ何もできない、大して何を知ってるわけでもない
確かなモノ1つ
「生きてる」という実感を
強く握りしめて
僕は今、日本を目指してる。
白井耕平さん(武蔵大学人文学部=2年次休学中、世界一周中)
エッセイ集 フロンティア・フォーラム寄稿No.69:「『生き方』を変えていく旅~3月11日生まれの僕」
http://japangap.jp/essay/2012/06/311.html
ブログ:http://amba.to/XniWbn

