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JGAP寄稿者短信:「米国大学院の教壇で学んだこと」(加藤遥平さん、米国大学院UC Davis在学中)


 
期待される役割
 UC Davis が大学院生に期待する役割は3つあります。研究者、教育者、そして、自らの知識や経験を共有する伝承者。

 研究者としてはひよっ子で、伝承者としては、持っている経験が浅い。それが入学したての僕の立ち位置でした。

 ただ、環境が劇的に変わった最初の年の最初の学期から、役割を全うする必要はないと思っていました。教育者としての役割を担うのは、もっとずっと先だと思っていました。

 でも、機会は待ってくれませんでした。ひょんなことから建築・ランドスケープ学科の授業でTAをすることになったのでした。


大学院生のお仕事
 大学院生の多くは、授業料免除を受け、お給料をもらうために、RA (Research Assistant) か TA (Teaching Assistant) をしています。

 RAは教授の研究助手をしたり、プロジェクトに関わったり、形は様々です。TAも仕事の内容も授業や教授の方針によって色々で、TAの役割も、与えられる権限も違います。

 僕の場合は、約15人の学生の居るクラスを3つ受け持ち、週3コマ、授業*を教え、
Office Hour を週一時間設け、学生の出す6つの課題と、中間試験、期末試験を採点し、学生一人一人の成績を決める権限を持っていました。

* 内容は、教授が教える講義の補助的なもので、スケッチの基本や、 デザインのプロセス、課題への取り組み方など。


度胸を受け入れる度胸
 渡米して一週間も経たない頃、急にTAの空きができたということで、修士課程なのに、博士課程の学生と一緒に選考を受けることになりました。

 面接では、「この分野の授業をとったことはなく、ほとんど知識はありません」と、正直に言いました。

 一方で、「ファシリテーションを駆使して、受講生と共に学ぶ環境を作れます。日本やバングラデシュなど世界中の事例を紹介することができます。」 と、ハッタリにも近いアピールで面接を終えました。

 一年目の最初の学期に、修士の留学生がTAのポジションを得るのは異例だそうで、あまり期待していなかったのですが、正直さと度胸が、僕以上に度胸があり、勇敢な教授の共感を呼んだのでした。


不安に次ぐ不安
 建築・ランドスケープの新入生や、建築やデザインに興味のある学生が主な受講生で、 今年は全部で約160人。TAは僕を含めて3人居ました。

 教授の口癖は、 「受講生との距離が近い君達TAが彼らのことを一番よく知っている。成績評価に関する決断は、すべて君達に任せるわ。」

 統一の評価基準はあっても、生徒一人一人の個性が溢れ出るスケッチやエッセイには、「間違った答えはない」のが常。採点は簡単ではありませんでした。

 言語の壁は大きな不安でしたし、そもそも学部で、国際開発を専攻し、 授業に関する知識も、デザインに関するスキルも、前インターンで少しかじった程度。この分野で教壇に立つには、かなりの勇気を必要としました。

 自分の授業の面倒を見れるかどうかも危ういのに、新入生の面倒をみることなのできるのか、不安は尽きませんでした。


対策に次ぐ対策
 「TAに期待される役割は、教育者ではなく、ファシリテーターです。」

 教鞭をとりはじめて50年の先生の言葉に背中を押され、バングラデシュや日本で学んだファシリテーションの技術を最大限に活かし、様々なアイスブレークやグループディスカッションの手法を取り入れ、言語の壁を打ち破るべく画像や動画をふんだんに使い、毎回、授業の台本を書き、教室で練習して授業に臨む。メールでの質問には、なるべく早めに丁寧に返信する。無数の不安に打ち勝つためには、できることを一つ一つやるしかありませんでした。


「今年のTAは "Dream Team" だ」
 専門が異なるスペイン人と日本人とアメリカ人の多様性溢れるTA陣を評して、最後に教授はこんな言葉をくれたのでした。

 期待に応えることが出来たかは、わかりませんが、自分の色と、その活かし方を学べたことは確かです。一方で、課題も山積で、特に生徒一人一人と時間をかけて向き合うだけの余裕がありませんでした。

 学生としての役割と、教育者としての役割、この2つをどうバランスさせるか、教壇に立つ度に、もしくは教壇に立つ選択を迫られる度に今後も悩み続けるのだと思います。そして、両方をしっかりこなせるだけのキャパシティが欲しい、と痛感した10週間でした。

卒業まで、あと一年半。

2012年7月8日付 フロンティア・フォーラム寄稿 No.75:「米国留学、国際NGOインターンを経て、バングラデシュ~国境なきコミュニティデザイナーを目指している私」 加藤遥平さん(当時、筑波大学5年) 
http://japangap.jp/essay/2012/07/ngo.html

ブログ:The Rad Visionary
http://yoheikato.weebly.com/1/post/2013/12/161.html