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JGAP寄稿者短信:「米国・理系大学院留学の近道を考える」(中込 翔、ヒューストン大学博士課程)
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 すべてのアメリカの大学院の博士課程入学の結果がすべて出揃ったのは去年の今頃でした(正確には4月)。学士から直接博士課程に入学する上に、研究実績も何もなかった僕にとってはある意味賭けでもあったこの出願。運良く第二志望の今のヒューストン大学大学院に拾われました。実際にこちらで1年近く研究してみて、教授にもラボメンにも環境的にも非常に恵まれているな、と日々感謝しながら研究に打ち込む日々です。

 さて今回は同じようにアメリカの大学院への留学を志す人にとって少しでも役に立てばと思うことを書きたいと思います。僕が日本にいた頃にはあまり聞いたことがなかったけれども、こちらにきて実は普通なんだな、という大学院への経路です。

学士号から直接博士課程へ行くのは難しい?
 アメリカの大学院の面白いことは、その他4年制の大学で学士号さえ取得していれば博士課程へ出願することができるところです。この修士を飛ばすという考え方はまだまだ日本では一般的ではないと思いますが、学部を卒業してすぐにアメリカでの密度の濃い5年間をみっちり研究に費やせるという意味では非常に魅力的な選択肢です。

 しかしながら当然簡単に合格できるわけではありません。アメリカの大学院のレベルは非常に高く、生活費等の面倒も見てくれることから、世界中から優秀な生徒たちがこぞって出願してきます。このラボでも僕が合格した年は倍率が10倍ほどあったほどです。ですから当然判断基準がシビアになってきます。修士を持っていれば、かなりのプラス要素になることは間違いありません。

 なにせ修士号を得るために研究実績を持っているわけですから、学士号しか持っていない、ましてや研究実績のまるでない得体の知れない生徒に比べたらはるかにローリスクなわけです。だからといって学士から直接アプライしてまったく可能性がゼロでないことは僕も含め多くの日本人の同士たちが証明しています。


じゃあ修士をとってからアメリカの大学院に出願すればいいのか? 
 可能性としては確実に上がるでしょう。学士号を取得したあとに直接アメリカの大学院に出願して運悪く全滅してしまった人でも修士号を取得したあとにもう一度トライして見事合格をした人も何人か知っています。

 しかし2年(もしくは1年)遅れるというのは大きな機会損失であることもまた事実かもしれません。日本での大学院の2年とアメリカの大学院での2年、僕は日本の大学院に在籍したことがないので確かなことは言えませんが、それでもこの1年を省みるに、こちらのほうが非常に密度濃い実りある体験をできるのではないかと考えています。


では、どうしたらなるべく早く学士から直接博士課程へといけるのか
 これが今回の本題です。
実はこちらに来てから気づいたのですが、アメリカの大学院のラボには大きく分けて5種類の人がいます。(教授を除き)
1.ポスドク(博士号取得した無償や有給の研究員)
2.博士(修士)課程の学生
3.学部生
4.スタッフ
5.その他(訪問)

の5種類です。1-3はみなさんもよくご存知だと思うのですが、実はこの4,5が狙い目なのです。

 一例を挙げます。うちのラボで僕より少し前にスタッフとしてこのラボに配属されたSくんという子がいます。彼は学部を卒業してすぐこちらのラボにアプライしてきたそうです。彼は時給ベースの給料を受け取りながら研究やラボを助けるテクニカルスタッフとして働きながら、ある研究プロジェクトにも参加し、この一年で成果をあげました。そして今年いくつかの大学院のアプライし、6校ほど出願した中からうちも含めて4校のRA付き合格を頂いたそうです。

 つまり僕が言いたいのは、
1.学士から直接博士課程出願
2.修士を取って博士課程出願

というよくある選択肢以外に、ここアメリカでは当たり前のように
1.学士から直接博士課程出願
2.ギャップイヤーを利用してラボで働いて結果を出して博士課程出願
3.修士を取って博士課程出願

という第三の選択肢があるということです。


ギャップイヤーを利用してラボで働く、後に博士課程出願
 アメリカでは大学を卒業したあと(もしくは在学中)、1年ほどインターンとして会社で働いてみたり、見聞を広め、経験を得るために外に出る期間としてギャップイヤーを使う風習があります。Sくんなどの博士課程を目指している学生はこの期間を利用して会社で働いて開発の経験を積んだり、直接自分が興味あるラボで働かせてもらったりして実績を積み、博士課程出願への試金石とするわけです。

 それではここで選択肢のメリットとデメリットについて考えてみたいと思います。
まずメリットとしては
•直接興味があるラボで働くチャンスを得やすい(出願よりかは)
•学士から直接アメリカの研究室の環境に入れる
•たった1年、もしくは半年で博士課程入学へのチャンスが上がる

 まずスタッフとして働く場合は、ほとんどの場合直接ラボへ、多くの場合教授へコンタクトを取り、教授とのやりとりの中で採用が決まることが多い(少なくとも聞いたところでは)ということです。

 そのため、博士課程出願に比べて参入障壁は低いです。とりあえずスタッフなら、といって試しに2,3ヶ月雇ってみることも多いそうです。学士から直接アメリカの研究室へ比較的(といっても博士課程出願に比べて)簡単に入ることができるというのもポイントです。

 これは僕が出願する前にMITのメディアラボのとある研究室に行った時にも勧められた方法です。「試しにうちで半年ほど働いてみないか?その結果によっては博士課程への入学を認めても良い」と。この方法のメリットの一つはMITメディア・ラボなどの倍率は100倍を超えるような超有名どころでもチャンスがあるということです。(もちろんアメリカはシビアなので結果が振るわなければすぐにクビということもザラです。)

 そして何よりもここで結果を出せばその研究室で博士課程として雇ってもらったり(これが一番多い)、そこでの実績を元にして他の大学院へ出願するという方法が取れます。


 一方でデメリットについても考えてみましょう。
•不安定な立場である
•財政的な援助は厳しい場合がある
•すでに何かしら技術を持っていないと厳しい

 まず最初にスタッフというものは雇われるのも比較的簡単な分、クビを切られるのも比較的簡単だということです。そういう意味では不安定な立場である、とも言えるでしょう。しかしこうしたことを覚悟した上でやってくる彼らを見ていると、それもまた自分のための一つの選択肢なのではないかと僕は思っています。

 財政的な援助は厳しいことがあります。とりあえず試用期間として雇ってみるという場合ですと、最初の数ヶ月は給料が出ないということもあるそうです。日本からアメリカに渡ることを考えた場合こうした財政的な部分はボトルネックになる可能性もあります。

 また最後に、何かしら技術を持っていないとテクニカルスタッフとして雇ってもらうことすら厳しいということです。多くの場合彼らはちゃんとしたプログラミングのスキル(研究の実験に耐えられるソフトの開発等)ができるぐらいの技術力を学部生の時に身に着けています。こうした技術がなければスタッフとしての道すら厳しいということをあえてデメリットの欄で紹介したいと思います。

 いかがだったでしょうか?
こうした第三の選択肢もあるということを知っておくことも重要かと思います。

他に何か質問があればいつでもツイッター等でリプライをください。

プロフィール:
中込 翔
留学歴:イタリア3年、イギリス4年
慶応義塾大学理工学部卒業
インドのシリコンバレー、バンガロールのITスタートアップにてソフトウェアエンジニア
ヒューストン大学博士課程に合格し、2014年9月より留学

ブログ:「How I walk ゴメスの歩き方」:http://www.shonakagome.com/
ツイッター:https://twitter.com/gomessdegomess
著書:http://goo.gl/89s8m4

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