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JGAP寄稿者短信:「アメリカ博士課程卒業生向けビザ情報まとめ」(中込 翔、ヒューストン大学博士課程)
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はじめにいくつかの注意事項
1.この投稿は、僕のようにアメリカで博士を取得後、アメリカで働きたいと考えている人向けの投稿です。
2.ここに書いた情報は1年も経てば古くなることが予想されます。そのためできるだけ公式やそれに近いURLを貼りながら説明していくので適宜そうした頻繁に更新されるサイトから最新の情報を取得するようにしてください。
3.現在アメリカの大学に通っている人なら必ずと言っていいほどその大学に情報提供や添削、相談をしてくれる組織があるはずですので一度探して訪ねて見てください。大抵International Student Officeに行けば教えてもらえます。
4.僕はビザに関してプロフェッショナルではありません。今回の内容も大学が開催したビザ取得のセミナーに参加し、アドバイザーと何度か個人的に話したことに加え、自分で調べたことを元にまとめています。なので間違い等あれば指摘頂けると幸いです。

ビザの種類
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図1 ビザの種類政府公式サイトより作成)

上記図1がビザのマインドマップです。大きく分かれて非移民ビザ(Nonimmigrant)と移民ビザ(Immigrant)に分かれています。それぞれさらに細かい区分がある場合もありますがここではすべて説明しません。日本語の公式情報が欲しいという場合はこちらを参照ください。

この中で博士取得後、現実的な選択肢となりうるものに非移民ビザであるOPTとH1-B、移民ビザであるEB-1とEB-2について少し詳しく見ていきたいと思います。


OPTそしてCPTとは何か
ここではまず上記4つの選択肢の中で一番簡単に取得できる(らしい)資格であるOPTとCPTについて説明したいと思います。

政府公式サイトにPractical TrainingとしてまとめられているOPTとCPTはそれぞれOptimal Practical Training と Curricular Practical Training の略です。

いずれもF系のスチューデントビザ(F-1)を持っている人用の選択肢です。大学や大学院で学んだことを活かし実際にアメリカの社会に出て有給で、ある一定期間働くことを許される制度です。それぞれの特徴は以下のようになっています。

CPT
1.CPTは自分の専攻と直接関係のある仕事でなくてはならず、また学習プログラムの一貫でなくてはならない※1
2.仕事先からオファーをもらっていなければならない
3.フルタイム(週20時間以上)もしくはパートタイム(週20時間以下)を選択可能である※2
4.CPT後にOPTへと進むことも可能である
5.卒業前にしか使えない

※1:学習プログラムの一貫とはInternship, Cooperative education など大学のプログラムの一貫として組み込まれている必要があるということ。また大学と雇用会社との間で提携関係が結ばれていないといけない。詳しくは自分の大学でCPT用の単位があるかを確認してみることを強くおすすめする。 ※2:パートタイムの場合、就労期間に制限はないが、F-1ビザのステータスを維持するために就労しながらもフルタイムで単位を取得しなくてはならない。フルタイムで12ヶ月以上働くことはOPTへ影響してしまう。また春季・秋季はF-1ビザの維持のためフルタイムで単位を取得しなくてはならない。


OPT
1.同じく自分の専攻分野と直接関係のある仕事でなくてはならない。ただしCPTと違いカリキュラムの一貫である必要はない
2.仕事先からオファーをもらっておく必要はない
3.それぞれの学位で12ヶ月間のOPTに申し込むことが可能(学士で12ヶ月、修士・博士で12ヶ月等
4.まだ卒業していない場合春季・秋季等のセメスター中は週20時間しか働くことができない。卒業後はフルタイム可
5.ここに記載されているscience, technology, engineering or mathematics (STEM)系の学位取得中、もしくは取得後の場合さらに17ヶ月間のOPT延長が可能である※3

※3:つまり計29ヶ月間までOPTを利用して働くことが可能ということ。しかし延長に関しては他に必要な条件がいくつかあるので公式サイトや自分の大学のサイト等を参考にして頂きたい。

上記に書いた特徴等はあくまでもほんの一部であり、詳しい条件等はご自分でしっかり責任を持って調べて頂きたい。ここではあくまでもこういう制度があるんだよという紹介にとどめています。


【重要】OPTからH1Bへ
さて博士取得後に本格的にアメリカで働こうというのになぜOPTという就労制限がある制度について説明したのでしょうか?それはOPTはH1Bに移行するための重要な布石となりうるからです。H1Bのビザについては後ほど説明しますが、移民ビザを取得しない限り、アメリカで働くとなるとほとんどがこのH1Bビザを目指すことになるそうです(大学のインターナショナルオフィス調べ)。ではなぜH1Bの前にOPTなのか?それはH1Bビザの取得の難しさ、面倒臭さ、特殊性(アプリケーションの開始が4月、有効開始は10月など)ゆえに、(多くの場合)企業側がOPTを持たない人のH1Bスポンサーになってくれないからです。


H1-Bビザについて
それではここからH1Bビザについて説明していきたいと思います。これは留学生がアメリカで非移民として働く際に最終的に取得する最も一般的な就労ビザになります。特徴としては:
1.仕事として就くポジションが学士以上の学位を要するポジションである必要がある
2.毎年H1Bビザを取得できるのは6万5000人のみ。ただし修士・博士等の大学院学位取得者にはさらに別枠で2万の枠が用意されている(これが博士取得者に有利な条件の一つ)※4, 5
3.4月1日からアプリケーションの申請受付が開始され、10月1日からビザが有効となる
4.H1Bビザの最大有効期間は6年。6年以上の延長はグリーンカード申請が必要であり、なおかつH1Bビザの切れる1年以上前に申請されていなければならない
5.グリーンカードへの移行がスムーズ
等があります。

※4:参考までに公式ではありませんが、2014年度の抽選にはその前の年の4月1日からたった5日間の間に12万4000人もの応募が殺到し、はじめに修士以上の2万人が選ばれ、それから一般の6万5000人が選ばれたそうです。 ※5:これまた噂なのですが修士・博士取得のエンジニアに関しては慢性的に人手不足のため、優先的にプロセスされるとかされないとか。あくまでも噂です。


【補足】CAP-GAP extensionsについて
H1Bビザは申請からビザ取得、その有効化までに約半年の幅があります(4月申請からの10月有効化まで)。そのため、せっかくH1Bを申請したけれども、それが有効になる60日以上前にOPTの期限が切れてしまう場合があります。そうした場合OPTが切れてからH1Bが有効するまでのビザ無し期間=ギャップが生じてしまうのですが、そのための制度がCAP-GAP extensionsです。これはOPTが終了する前にちゃんとH1Bビザが移民局に受理されて、なおかつ申請が認可された場合、自動的にOPTが延長されて本来ならOPTが切れてしまいH1B有効までの期間(CAP-GAP期間)がビザ保証される制度です。しかし注意点としてはこのCAP-GAP中にアメリカを出てはいけないということ。するとH1Bビザが有効化されるまでアメリカに入国することができなくなるそうです。

EB1とEB2-NIWについて
これらはいずれも移民ビザになります。一般的にグリーンカードと呼ばれるもので、日本語で永住権と呼ばれることもあります。 メリットとしては:
1.滞在期間に制限がない
2.アメリカでの就職、転職等が自由(夫、妻や子供も)
3.グリーンカード取得後5年でアメリカの市民権への申請が可能

またよく勘違いされるのが、グリーンカードを取得しても別に日本の国籍は失わないということです。 博士課程取得後、可能性として考えられるグリーンカードがEB1(卓越した能力を持つ人)とEB2(米国の国益になる人)になります。ただしEB1に関しては非常に条件が厳しいため、博士取得直後に申請とはいかない場合が多いようです。日本人が申請する場合EB1もEB2もそれほど取得に時間の差がないそうなのでEB2でも良いそうです。(中国人とインド人はそうはいかない)

EB1についての取得条件の詳細はこちら

EB2についての取得条件の詳細はこちら

EB2-NIWについてのサイトはこちら

実際にEB1等を取得した人たちの科学実績の例などは公式ではありませんがこちらにあります。

具体的な研究業績に関しては自分が仕事を依頼する弁護士等の手腕にもよって多少上下するそうですが、こうしたブログによると EB1:
1.博士を取得済み
2.10本以上のジャーナル論文
3.40回以上のCitation
4.5回以上の国際会議出席及びジャーナルの査読、もしくは非常に高いレベルのプロフェッショナル組織のメンバーであること


EB2:
1.博士を取得済み
2.3本以上のジャーナル論文
3.5回以上のcitation

また両方とも上記に加え
1.4本以上の推薦状
2.説得力のあるカバーレター

が必要だそうです。しかしこれらも公式の情報ではないので信憑性はわかりません。ただ博士課程中にこういうことも意識して少しでも研究業績を出せるよう頑張る指標としてはあっても良いかと思います。


その他便利なサイト
MyVisaJobs どの会社がどれぐらいのH1Bビザ所有者を受け入れているか、分野ごとのビザ所有者の統計などなどビザに関するデータ情報をまとめているサイト。自分がアプライする会社がある程度名の知れたところならここをチェックしておくことをおすすめする。

Immigration.com 移民専用の弁護士事務所の中でもかなり大きく実績もあるところのようです。グリーンカードの申請には多大な労力等を伴う上に法的な側面からのバックアップも必要だそうでこうしたところから弁護士を雇う人が多いそうです。

Law Offices of Carl Shusterman 上記と同じく弁護事務所です。どこか自分に合うところを探しておくと良いですね。


最後に
アメリカのビザ申請は鬼門です。地獄です。異常に面倒くさいです。(先輩たち経験者談) ということでこうした情報を前もって仕入れておき余裕を持って準備することが大事だということです。 1に準備、2に準備、3に準備に5が準備だそうですのでしっかり情報を仕入れて一歩ずつ着実に進めていきましょう(International Student OfficeのVisa担当おばちゃんより)。

プロフィール:
中込 翔
留学歴:イタリア3年、イギリス4年
慶応義塾大学理工学部卒業
インドのシリコンバレー、バンガロールのITスタートアップにてソフトウェアエンジニア
ヒューストン大学博士課程に合格し、2014年9月より留学

How I walk(アメリカ、ヒューストン大学院博士課程在籍中のゴメスのブログ):
http://www.shonakagome.com

ツイッター:https://twitter.com/gomessdegomess
著書:http://goo.gl/89s8m4


(関連記事)
2014年8月16日付
エッセイ集 フロンティア・フォーラム No.178:「自分の中に羅針盤を持つということ」(中込 翔さん、ヒューストン大学博士課程)http://japangap.jp/essay/2014/08/why-do-you-do-that.html

2014年10月10日付
JGAP寄稿者短信:「『君のキャリアパスを教えてほしい』と教授に言われた!」 http://japangap.jp/info/2014/10/jgap-171.html


2014年5月19日「あなたはなんのために大学に通うのか。」
http://www.shonakagome.com/entry/dislike-667.html

2014年12月9日付
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2015年5月8日付
JGAP寄稿者短信:「米国・理系大学院留学の近道を考える!」
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2015年8月23日付
JGAP寄稿者短信:「目標と計画はやはり大事だという話」
http://japangap.jp/info/2015/08/jgap-210.html