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新刊『<ジーニアス>可能性を見つけよう』を読んで~「HBS⇒グーグル本社⇒シリコンバレーで起業」の石角 友愛さんのキャリア論石角さん本.jpg

「What is your genius?」は、「あなたの本質は何?」の意
 石角 友愛(いしずみ ともえ)さんには、3年前に都内でお会いし、インタビューしたことがある。お茶大附属高校時代に違和感を感じて退学し、単身米国に渡ったギャップイヤーを経験している女性だ。簡単にプロフィールを言うと、ハーバード・ビジネススクール(HBS)時代に学友と結婚した。出産をし、MBA取得後、日本で就職する選択肢を振り切って、夫婦とも米国で就職した。グーグル本社退社後、ベンチャーを起業している。(JGAPギャップイヤー・インタビュー:http://japangap.jp/gapyear/2012/05/11.html )

 これまで、話題となった「私が白熱教室で学んだこと」「ハーバードとグーグルが教えてくれた人生を変える35のルール」を著しておられるが、今回は、2012年12月にグーグルのシニアストラテジストの職を投げ捨て、米国の労働市場が抱える問題解決のためのサイト運営会社を設立されて初めての著作だ。

 この新刊『<ジーニアス>可能性を見つけよう』のコンセプトは、ずばり「ジーニアス」。私は本来マーケッターだから、言葉に対して敏感なところがある。この日本語にすると、「天才」という言葉は、出版社は普通書名に入れたくない衝動にかられると思う。反発も予想される言葉であるし、「自分とは関係ない」と思われたら、潜在読者を失うリスクが高い。
 しかし、石角さんは、敢えて自分の信じるこの言葉に賭けられたのだろう。まさにそのチャレンジングな姿勢は、彼女自身のこれまでのキャリア・パスを象徴するかのようだ。

 古代ローマでは、「ジーニアス」は特別な人に授与された特権ではなく、 "天性から備わっている才能"で、それは"秘めたる力"、「可能性」のことだ。HBSのマルホトラ教授から教わった「すべての人が未知の可能性として秘めている、自分らしさの本質」のことだという。だから「What is your genius?」は、「あなたの本質は何?」という意味になる。

サイエンスと実用書の両面を持ち合わせる良書
 断っておくが、この本は単なるエッセイではない。石角さんは、心理学を修めているので、その新しい知見やデータが満載のサイエンス的側面と、日本人が米国で学び、ビジネスを通して経験したことが、惜しげもなく披瀝されている実用書でもある。

 例えば、前者でいうと、米国で就職前の学生が受ける「セルフアセスメント・テスト」(日本の自己分析テストやSPIに近い)やHBSで全学生が受ける「キャリアリーダー」などを紹介している。そして、「ひとりで自分の思考を張り巡らせるのが好きか」「抽象的な概念を好み、未来に関心あるか」「自分の感覚や周りの人間の感情などを配慮して物事の判断をするか「計画は立てず、締切間近に一番能力を発揮するか」など、簡易的に、4つの軸になる質問から16種のパーソナリティタイプを割り出し、読者に提示する。グローバルエリートというと、英語が出来て、外向的で、分析能力に長けてい等ステレオタイプなイメージを持ってしまうが、みんながみんなそう一律的なものではない。「内向的」資質であっても問題ないということも理解できる。

 また、世界で活躍するのに必要なソフトスキルとして、「5つのO(オー)」を整理する。
すなわち、Optimist ,Ongoing learning, Organized ,Open-mind, Ownershipの5つの要素だ。特に、4つ目の「オープンマインド」の記述は秀逸だ。自分をさらけ出すことを恐れず、新しいことや、未体験のこと、無知だったことに興味・関心を持つことで「オープンマインド」になるが、もともと人間は遺伝子的にそうなっていない。それを鍛えるエクササイズを5つ紹介しているが、そのうちの二つは、「過去に自分に対してひどいことをした人の立場に立ち、理由を3つ挙げる」「捕鯨や死刑制度など、感情を伴うディベート・トピックスを選び、自分の反対する意見の側に立つ」。ハッとした。残りの実践的取り組みについては、現物を楽しみにお読みいただいたほうがよいだろう。

 後者の実用書の側面では、グローバルな世界で評価されているのは、doer(行動する人) であって、talker(話すだけの人)ではないことが挙げられる。doerに必要なのは、世界に通用するスキルや知識でなく、むしろ強い目的意識だともいう。MBAで学ぶのも、一つのツールでしかなく、学んだことを使って「一体何をするか」という戦略を描かない限り、シリコンバレーに行こうが、NYに行こうが何もできないと断罪している。重要なことは、自分の中のジーニアスに向き合い、「学んだことで、こういうことをやってみる」と行動を起こせば、最初は試行錯誤でも、必ず自分の進路は見えてくると自身の経験を伝えている。

 また、個々のジーニアスに合わせて、どのような「問題解決能力」を、どのような「プレゼン能力」で、どのように「交渉力」を上げていくかも、著者の多くの経験から考察していて興味深い。

 いずれにせよ、石角さん自身も言うように、グローバル・エリートは「これを学べば、この分野で成功できる」といった単純な図式では表せない。しかし、この本には、10代でギャップイヤーから異文化空間をこじ開け、米国の競争社会でもまれ、子供を育てながら起業したひとりの日本人女性がまさに肉声で語りかけてくる。決して、米国称賛の文脈ではないことも読んでいてわかってくるし、日本への温かい眼差しとエールが心に響く。

 「日本人は、アピールするにしても必要以上にガツガツせず、謙虚な態度でいることができます。相手から評価を受けているという前提があれば、この姿勢は極めて信頼を持って受け入れられます。」(第4章 「グローバルに活躍できるハードスキルを知ろう」)
「以前の日本には、女性達が安定を求めて結婚をする時代がありました。しかし、グローバル社会はもっと不安定であることを前提にした社会であり、だからこそ"支え合える人"を求めて、より絆の強い、お互いのジーニアスに共感できるパートナーを、双方が目指すのです。夫婦関係はもちろん、そういう意識をもって人とのつながりを考え直すことが、日本でもより一層重要になるのではないでしょうか」(終章 「世界のエリートは何も犠牲にしない。」) 

 この新刊は、「世界に通用するワークライフ」に対し、多くの示唆を得ることができる。まさに、これからの日本における実践的「キャリア論」だと私は考える。

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