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「"ギャップイヤー"が社会を変える」(5/21 NHKクローズアップ現代)を予習しよう!


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ギャップイヤーへの期待は、ズバリ、「グローバル人材」「社会的課題の解決人材」などの「リーダー育成」
 21日(火)19時半から放映予定のNHKクローズアップ現代の「"ギャップイヤー"が社会を変える」がツイッター上やフェイスブック上などで、話題になっている。まず、タイトルの「社会を変える」は、これまで社会運動体のJGAPが設立後2年間主張してきたことであり、刺激的だ。13日にこの番組表がアップになったので、JGAPのフェイスブック・ページで紹介すると、またたくまに1100リーチを記録した。それは、ギャップイヤーの概念や仕組みが進行すれば、日本の窮屈な「新卒一括採用」が通年採用へ移行になったり、そもそも人材の採用基準や人材評価が大きく変わっていく可能性を秘めているからだろう。

 そこで、30分という短い番組で、この定義や概念が浸透するかの懸念もあり、直前の今日、番組の予習を思いついた。予習の機能だけでなく、復習の機能も兼ねるように、ギャップイヤーの体系を以下簡単にまとめる。

 まず、ギャップイヤーへの期待は、ズバリ、「グローバル人材」「国内地域・社会的課題の解決型人材」などの「リーダー育成」に尽きる。以下の概念図にあるように、2004年当時に英国・教育技能省(現教育省)がロンドン大学にその実態やその影響の報告を委託している。ギャップイヤーに関する論文も諸外国で数は多くないが、概ねこれを基準に議論されている。私は、招待論文「ギャップイヤー導入による国際競争力を持つ人材の育成」(日本学生支援機構、2012年3月)で、この概念図をベースに、広義化の現状を反映をして定義をしている。

 それは、親元・教員離れた非日常下での国内外での社会体験(ボランティア・課外留学、旅等)や就業体験(インターン・ワーホリ等)で、期間は、おおよそ3~24か月。米国では、「comfort zone(居心地よいところ)」からの脱却という表現がよく使用される。
 NHKの取材もこれをベースに行われている。重要な要素は「四角い赤」で示しているが、「社会体験」「就業体験」「国内外」「親元・教員から離れた=インディペンデント」が構成要素で、キーワードだ。3ヶ月でもよいわけで、「休学」は要件ではない。

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 また、以下の概念図も同論文で示したが、この「4層構造」になっていることを頭に入れておかないと、極めて理解が難しいと考える。e-Education(五大陸ドラゴン桜プロジェクト)のサイトでは、東南アジアでボランティアをする"ギャップイヤー生"が今回紹介されると告知しているが、これは第1階層の「プログラム」に相当するだろう。プリンストン大学の1年の海外ボランティアのギャップイヤー・プログラムや、米国のピース・コー(平和部隊)やTFA(ティーチ・フォー・アメリカ)、日本の「海外青年協力隊」(2年)もそうだ。大小のミッションを持っているのが特徴だ。  

 第2階層は、今回取材のきっかけとなった東大の「FLYプログラム(新入学生の奨学金付1年特別休学制度)」や、国際教養大学(秋田)のギャップイヤー入試組(入試は秋で、入学は翌年9月)が該当する。自主的になんらかのテーマ設定をし、提案し、採用されれば実行する。企業に入社してから海外ボランティアを行う「留職プログラム」や、インドでの「鍵付冷蔵庫」のヒットなど、韓国・サムソンが20年以上続けている「地域専門家制度」(4千人以上が1年間途上国で言語と文化を習得)も該当するだろう。  

 第3階層は、プログラム(既製服)というよりプラン(注文服)であり、より一般的なものだ。自主的にテーマを設けて世界一周の旅に出たり、語学留学、ワーホリ、海外インターン、被災地・限界集落ボランティア等を行うものだ。私は、日本ではギャップイヤーが「高等教育」の観点で議論されるのは、当面この第3階層までだと考えている。  

 第4階層は、さらに"ゆるく"、本業を離れ、じっくり心身を休ませることを意味する。実は、ハーバード大学は、高校時代まで学業に専心していた入学生にギャップイヤーでリセットを勧めているが、これによるバーンアウト(燃え尽き症候群)や中退率低下機能を認めている。東大も秋入学構想時、中間報告での記述に半年ギャップイヤー(ギャップタームは和製英語)のメリットを「多様な体験活動を積む"寄り道"を設けることで、受験競争で染み付いた偏差値重視の価値観をリセットし、大学で学ぶ目的意識を明確化できる」としており、この考えに近いことがわかる。


0519新ギャップイヤー4層構造.jpg


 さて、よく聞かれるギャップイヤーの効用と懸念であるが、昨年TBSで話した内容を以下参考まで転記する。

【ギャップイヤーの効用】
①バーンアウト(燃えつき症候群)と中退率の低下(英国・米国等)
②入学後の目的意識が明確化(2010年の豪州の査読論文で、大学入学前ギャップイヤー経験者が、非経験者より就学力が高まり、時間管理能力等で秀でていると報告)
③就業力の向上(2011年の英国250社経営者インタビュー調査で、新人採用の際、学位よりギャップイヤーの経験を同等かそれ以上評価すると応えた人が6割を超えた)
④職業観の醸成(2012年度「労働経済白書」でも書かれている。大卒者は3年で3割辞めているが、その処方箋になるかもしれないという期待)
⑤海外でのインターン・ボランティア・課外の留学が増える⇒「グローバル人材」としての耐性獲得と実地訓練
⑥国内での限界集落や被災地でのインターン・ボランティアをすることで、「社会的課題を克服する」研究やビジネスへの足掛かりが構築
 つまり、ギャップイヤー導入で、「グローバル人材」と「国内社会・地域課題解決型人材」の両方を生み出す可能性が高い。

 一方、マイナスの可能性であるが、

【ギャップイヤーの想定されるデメリット・懸念】
①ギャップイヤー期間の経済的負担増大 (奨学金・寄付・助成金で対応?)
②遺失年収(ストレートで卒業する学生との理論的減収。但し、ギャップイヤーは、休学せず、年次が遅れない選択も可能)
③経済格差によるギャップイヤー活動の質(裕福な家庭は課外留学やボランティアだが、貧困層は有給インターン、アルバイト等へのシフトという懸念)
④高校進路指導の複雑化(春・秋入学が進行した場合)
⑤入学前の半年ギャップイヤーの実施大学が社会に影響力ある有力大学ばかりだと、企業の採用が「秋入学」大学に集中、 「春入学」組の大学生の機会が奪われる可能性
⑥半年の場合、短期でのギャップイヤーの有効性(しかし、これは先行する国際教養大の半年ギャップイヤーの知見が既にある)

。南アフリカの高度人材養成学校African Leadership Academy のギャップイヤー・プログラムでは、以下のようなリーダーシップに必要な能力やソフト・スキルが得られるとしている。
• international Perspective 国際的視野
• Decision-making 意思決定力
•Relationship-building 関係性構築力
• Problem-solving and Resourcefulness 問題解決力と独創性
• Communication, especially across cultures 異文化コミュニケーション
• Organization and Responsibility 組織力と責任力
• Teamwork and Flexibility チームワーク力と柔軟性
• Maturity and Self-Awareness 成熟と自己の気づき
• Independence and Self-Confidence 独立性と自信
• Language Fluency 言語能力

 定性的であるが、このような能力が培われるなら、理想的なプログラムだろう。

 最後に、この2年の国内における「ギャップイヤー」の動向を下にまとめてみた。
当日解説する広島大学の秦由美子教授は、5年前に文科省の研究費で「英国のギャップイヤー状況報告書」(http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/itaku/__icsFiles/afieldfile/2010/08/30/1296718_1.pdf )をまとまられた方だ。この5年で、ギャップイヤーは世界的規模で大きく発展した。何せ昨年は、米国の大学で「1年間のギャップイヤー・プログラム参加で、翌年いきなり2年生」という大学まで出現してきた(下記参照)。JGAPが発信しているように、米国や豪州、イスラエル、韓国等を中心にギャップイヤーは進展中であり、その人材育成機能が注目されている。そのあたりの展望と示唆に期待したい。

ギャップイヤーの動向(2年間).jpg

(参考)
・日本学生支援機構(文科省所管)の「留学交流2012年3月号」にJGAP代表理事が論文「ギャップイヤー導入による国際競争力を持つ人材の育成」を寄稿。※リンクから全文が読める→ http://japangap.jp/info/2012/03/post-39.html

・2012年2月15日15:00~15:40 TBSテレビCS「ニュースバード」の「ニュースの視点」でゲストとして「大学秋入学とギャップイヤー」を解説。-JGAPニュース http://japangap.jp/info/2012/02/1515001530.html 

・ 経団連 教育問題委員会でJGAP代表が「ギャップイヤー体験者を増やす施策や評価」について提案 JGAP-ニュース http://japangap.jp/info/2012/07/-jgap-1.html 

・下村文科大臣のギャップイヤー奨学金発言から想うこと~大学入学前の高卒者に、1年の海外ボランティアを提供する米国・社会起業「グローバル・シチズン・イヤー」の快挙!-JGAP代表ブログ
http://japangap.jp/blog/2013/05/-npo-08-100-blogos1030-pbl-comfort.html

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