代表ブログフロンティア・フォーラム

日本をよくする提言から多様性を高める主張、ギャップイヤー文化構築提案まで、
多種才々なイノベーター達のエッセイ集

「旅へ出よう、刺激的な不自由さで彩られた世界へ!」川人さん.JPG


川人ゆかり(kawahito yukari)
(ローカルキャリアカフェ代表)


 わたしは現在フリーランスとして働いています。

 キャリアと教育という二つの領域において、これまた海外と日本の地域という二つの異なる場所を舞台に、複数のプロジェクトに参画し仕事をしています。一緒に仕事やプロジェクトを進める相手は地域の高校生からインド人までと幅広く、まさしく多様性の真っただ中で生活をしています。

 そんな今に至るまで、わたしは二十歳で初めて海外に出て以来、アジアと中南米を中心に合計2年半以上三十数か国をひとりで旅してきました。
 
 これらの旅での経験はすべて今の自分にとって糧となっているどころか、私の人生を何度も大きく変えてくれました。そして抱えきれない程たくさんの思い出は、今もなお美しく人生を彩り続けてくれています。

 わたしが大学生の頃には、ギャップイヤーという言葉も日本にはまだなく、休学がこんなに安く出来る時代でもなかったので、バイトをしては大学にも行かずに日本と海外を行ったり来たりするのが精いっぱい。一年を超える長期の旅が出来たのは、新卒で入った会社を一度辞めてからでした。

 大昔に比べると遥かにましではあるものの、いわゆる『リスク』というものと引き換えにしか、夢は叶わなかったのです。
そう考えると、今は休学の制度も整ってきていると聞きますし、日本にあるものを手放さなくても海外経験を積む事が出来るようになってきています。ぜひ学生のみなさんには留学でも旅でもインターンでも何でもいいですが、とにかく知らない国で日常を過ごしてみるという経験をしてもらいたいと思っています。

 冒頭からかなりしつこく薦めてしまったわけですが、なぜわたしがここまで海外での経験にこだわるのか...たくさん理由はあるのですが、個人的にどうしても経験して欲しいことがあるからなのです。

それは、日本ではない国だからこそ体験することの出来る、圧倒的な『不自由さ』です。

 言葉も通じない、時間も日付も違う国で、異なる歴史と宗教と習慣を持った人たちとコミュニケーションをとり、自分の身を守りながら一日一日を生きていくという状況は日本では到底再現は出来ません。日本で当たり前のように日々享受している便利さの対局にあるともいえる、この圧倒的な『不自由さ』をどれだけ楽しんで乗り越えてきたかという経験は、今のわたしにとって何にも替える事が出来ない生きることへの自信となっています。なにが起きても生きていける、という自信です。

 ではなぜ不自由さを経験した方が良いのか。

 それは、想像力、判断力、異なるものを受容する力、積極性、勘、これら人間が生きていくために必要な五つの能力を思いっきり磨くことが出来るからです。

 海外では、これまでせっせと身につけて来た常識も日本語も通じず、日本でならとても簡単に済むことも驚く程スムーズに進みません。だからこそ、これらの能力を磨くことが出来るのだと思います。

 では、実際どれくらい差があるのでしょうか。ひとつの例としてわたしの経験をもとに、"照り焼きチキン"をつくるという作業を、日本と南米のとある町を舞台に比較してみようと思います。

 まず日本。おそらく大半の人がスマホでレシピを検索した後、それを見ながらスーパーへ行って鶏肉、付け合わせの野菜、調味料(なんなら照り焼きの素)を買って自宅に戻り、作ります。簡単ですね、便利なところに住んでいれば一時間もあれば食材の買い出しから調理まで済むでしょう。

 それを、今度は海外で行うとしましょう。そうですね、ラテンアメリカのある国の第3都市くらいの規模の町、中心地から少し離れたエリアに滞在している際に行うとなればどうでしょうか。中心地から少し外れたとしても、その国ではそこそこの都会だといえる町のはずです。旅の最中に初めて訪れた町で、現地の言葉は話せないと仮定します。

 この場合、地域特性上レシピの前にまず考えるべき大事なことが発生します。

 それは治安です。一般的にラテンアメリカは治安が良くない地域が多いためです。外出する前に安全に外を歩ける時間は何時から何時くらいまでかを考える必要があります。これは町の雰囲気などからも推察出来ます。その国が銃社会かどうかも重要なチェックポイントですね。

 まず、こうしていろんな情報から外出可能時間を自分なりに決めたところで、Wi-Fiを繋げスマホを使ってレシピを調べます。が、しかし生憎Wi-Fiが故障していてネットが出来ませんでした。残念ながらこれもよくあることだったりします。仕方がないのでレシピを想像し、買い出しにでかけることにします。日本人旅行者は現地人に比べ狙われやすいのでバッグを前にかけ、なにかあったら走れる靴で買い物にでかけます。強盗対策は常に欠かせません。

 安全対策を十分にしたところで、まずは肉を買いに肉屋を探します。初めて訪れる町ではもちろん肉がどこで売っているか知らないので地元の人に聞かなければはじまりません。しかし現地の言葉も出来なかった場合、観光地以外英語も通じないことが多い中南米の国だとジェスチャーで地元の人に尋ねるか、食材の写真を見せるかして肉を売っている店をどうにか探さなければいけません。

 そしてどうにかこうにか肉屋を見つけて買い物をしている時でも、貴重品は道中で何もとられていないか、後ろに変な人がついてきていないか振り返ることも忘れてはいけません。誰かがついてきていれば、レストランやカフェに一旦入るか、走ってまきます。

 ようやく鶏肉の調達が済んだとしても、野菜や米も同じところで購入できるとは限りません。再度ボディランゲージや自分の足をつかって野菜と米を売っている市場を見つけ、なんとか購入出来たとして、次は調味料の醤油とみりんが必要です。日本食材が売っている店があればいいですが、移民が多い町かそこそこの大都市でなければそんな店はありません。

 ではどうするか。どこなら似た商品があるか想像するところから始まります。日本と味覚も近く食文化も比較的重なる部分のある国...そうだ、中華街ならあるかもしれないと思いつきます。ダメもとでバスに乗って中華街を探して買いに行きます。無事見つけた中華街で食品販売店に入って探してみると仮説があたり、醤油が買えました。世界中どこにでもある中華街では日本のものとは異なりますが醤油を手に入れることが出来ることもあるのです。完全な和風の味を再現することは出来なくなりますが仕方ありません。しかし、残念ながらみりんは売っていませんでした。

 ではどうするか。現地で調達可能なもので代用できるものはあるかと考えるのです。そこでコーラと酒類が思い浮かんだとしましょう。砂糖もたっぷり入っていますし、地元のお酒を足せばみりん代わりに使えそうです。そこでコーラとお酒を商店で購入します。何とか食材を手に入れたところで、また道を振返ったりしながら買ったものを盗まれない様に早足で滞在先に戻ります。
ここまでしてようやく、照り焼きチキンが作れるのです。

 たいしたトラブルがなかったとしても一日仕事になりますね。この間にもたくさん人とコミュニケーションが必要です。場所を聞いて、品物をたずねて、値段を聞いて、必要な料を伝えて...。言葉が出来なければかなり骨が折れる作業になります。

 さらに南米であればストライキ、デモも頻発しますからそもそも買い物へ行けないなんてこともひょっとしたらあるかもしれません。また、ジェスチャーが日本と異なる意味で受け取られた場合はどれだけ人に尋ねても売り場には辿りつけないでしょうし、もし尋ねた人が悪い人だったらどこかへ連れていかれてお金を盗られてしまうかもしれません。 では誰に道を尋ねるのか。どんな人なら信用出来そうか、自分の知りたい情報をくれそうか、言葉が通じなくても助けてくれそうかを考え判断する必要があります。ただ、それは見た目で判断するのでしょうか、声でしょうか、振る舞いでしょうか、性別でしょうか。

 海外では、たった一皿の照り焼きチキンをつくるだけで、想像力、判断力、異なるものを受容する力、積極性、勘をフル稼働させなければいけません。

 とても面倒ですね。ただ、この『不自由さ』こそが、自己を大きく成長させてくれるものだと思うのです。

 ぜひみなさんにも若いうちにたくさん海外で『不自由さ』を経験し、いろんな力を身につけてもらいたいと思っています。怖ければ最初はツアー旅行からでも友人と一緒でも構いません。その中で自発的になにかひとつでも、出来るかわからないけれどやってみたいことに挑戦してみてください。きっと人生は静かに、大きく変わり始めると思います。

 最後に。
 旅はとても楽しく美しいです。そして地球は、広い。知らないでいるにはもったいないほど素晴らしい世界が、みなさんを待っています。ぜひ自分の人生の舞台を世界に広げ、おもいっきり楽しんでくださいね。

 どこかでお会いできることを楽しみにしています。


プロフィール:
川人ゆかり kawahito yukari
(ローカルキャリアカフェ代表)

大学卒業後、人材紹介会社に就職し約3年間企業の採用支援に携わる。
退職後は自らのルーツを探りながら無期限の旅に出かけ一年数ヶ月に
渡り世界を一周。
帰国後は前職の経験を活かし「日本の若者にもっと多様な選択肢を」
をミッションに独立し、現在は移住定住促進支援団体ローカルキャリアカフェの代表として
西日本を中心とした地域と、個人それぞれのサポートを行っている。
その他キャリア教育講師、キャリアカウンセラー、観光庁『若旅★授業』講師
としても活動。

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