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多種才々なイノベーター達のエッセイ集

「シンガポール発~2年間のインド生活で学んだ"人生に大切な3つのこと"」1石崎.jpgのサムネール画像


石崎 弘典
ベンチャーキャピタル勤務@シンガポール


2年半前は勢いだけでインドでの投資アドバイザリー
「現実は小説より奇なり」、と言ったものですが、自分の人生を振り返り、大げさに聞こえるかもしれませんが、これは大変に的を射た言葉であると感じます。最近、お笑い芸人が芥川賞をとったことで世間は賑わいましたが、誰の人生にもドラマがあり、誰もが作家になりえると思えてなりません。

 私はこの2年半、インドで投資アドバイザリーの仕事をしてきました。インドの大手会計事務所に所属し、日系を中心に外資企業のインド市場進出を支援するものでした。インド人専門家と共に、現地法人設立、M&A、国際税務のアドバイザリーなど様々な業務を経験することが出来て、本当に素晴らしい時間を過ごさせてもらったと感謝しています。

 しかし、ここまで決して良いことばかりではありませんでした。インドに行ってからは、本当に毎日が暗中模索といった感じで、なんとか毎日をやり過ごしていたように思います。環境も厳しく、文化の違いは大きなストレスになり、商習慣の異なるインド人に囲まれて仕事をすることは大変に骨の折れることでした。社会経験のない26歳の私は突然に日系大手企業をクライアントにすることになりましたが、どのように対応したらいいかわからず、日系大手企業の方々が名刺交換し談笑するような空間は、とても自分が入っていける場所には思えませんでした。

 勢いだけでインドに来てしまった私には、自分を支えてくれる知識も経験もありませんでした。つまるところ、自信がなかったのです。仕事が上手くいかないことを、インド人の同僚が未熟なせいにしてみたり、また日本の企業のシニア層は能力もないのに役職だけは立派だと言い放ってみたり、随分と情けないこともしていました。また、感染症にかかって病院にも運ばれました。ストレスや食生活の乱れで髪の毛が多く抜ける時期もありました。それでも翌朝には目を覚まし、今日も頑張ろうと言い聞かせ、家を出て会社へ向かいました。

 半年が経ち、少しずつ状況は好転していきました。同僚たちとのコミュニケーションが円滑に取れるようになり、知識も定着してきたことから、荒いながらもプロジェクトを回せるようになりました。自身のクライアントへの言葉もどこか強みが出て、説得的なものになっていったようにも感じました。日々の地道な歩みが徐々に実を結びだし、政府系機関が主催するセミナーに専門家の講師として招かれることになり、大手銀行が発刊するビジネスジャーナルにも寄稿をするようになりました。確かな成長を実感できる瞬間が定期的に起こり、その度に喜びをかみ締め、より強い眼差しで未来を見つめることが出来るようになったのでした。

 そういった功績が認められたのか、2014年には西インド地域の政府家機関の専属アドバイザイーに任命して頂くことになりました。無駄なことなど何もなく、すべてが自分の糧になると心から信じることが出来た瞬間でした。知らせを受けた時はムンバイにいましたが、雨季が明け始め、珍しく透き通るような青空を目にしたことを覚えています。


シンガポールのベンチャーキャピタルという新天地へ
 そんな実り多き時間を経て、私は2015年の9月から新しい環境へ身を移すことを決意しました。インドでの経験や専門性が認められ、インドのスタートアップへ投資をするシンガポールベースのベンチャーキャピタルへ転籍するチャンスを頂きました。それまで大企業のコンサルティングを中心に業務を行ってきましたが、新しい未来のイノベーションを築くベンチャー業界には以前より関心が高く、投資サイドにも回ってみたかったこともあり、迷わず私は加入することを決意しました。

 インドを離れるということは直前まで実感の沸かないものでした。しかし、自分が紛れもなくインドで戦った軌跡を実感として思い起こさせてくれたのは、人々との別れでした。当初は自分の経験不足から勝手に近寄りがたいと思っていた、時に厳しい言葉を受けることもあったクライアントから、感謝や激励の言葉を頂いた時、もっと彼らのためにやれることがあったと多少の後悔も混じりながら、一緒に仕事をさせてもらえたことに心から感謝しました。また、出張が多かった自分は、インド各地のオフィスに同僚がいました。

 思い返せば腹が立つようなことばかりだった気もしてしまいますが、いつも笑顔で自分を迎え入れ、本当に苦しいときには家族のように支えてくれたインド人の同僚たちにはどう感謝の気持ちを伝えたら良いかわからないほどでした。数少ない日本人の同僚たちも、共に異国の地で切磋琢磨し、様々な感情を共有できたことを思うと、一生続く絆をつかめた事が嬉しくて仕方ありませんでした。


人生に大切な3つのこと
 以上の経験から、人生の中で3つの大切なことを私は学びました。まず、自分の好奇心に正直になるべきということです。人は何か決断する際に、周囲の目や社会のレールを気にしてしまいます。しかし実際にはそんなものなど最初から存在していないのです。私もインドへ行くと決めたとき、何か自分の心の声を聞いた気がして、そのままそれに従いました。

 次に、努力は裏切らないということ。一つ一つやっていったことは、必ず何かしらの形で自分の糧となってくれて、未来の自分を支えてくれます。辛ければ辛いだけ何か大きな成果やロマンが待っているはずで、私で言えばインドの苦しかった時期に頑張ってくれた自分に対しては、あの頃を思い出すと今でも感謝をしたくなります。極論を言えば、仮に目標が叶わなくても、ここまでやったのだから仕方がないと思えるまで努力をすることが大切で、何よりそれまでの過程は必ずや将来の助けになってくれるはずです。

 最後は、生きるということはやはり人によって彩られているということです。人を苦しめたり、傷つけたりするのも人かもしれません。しかし、やはり人生捨てたものではないと心から思えるような輝かしい瞬間を築いてくれるのも人なのだと思っています。私たち人間はそれを常に感じることが中々に難しく、それは何かの節目に思い出されるものです。私はインドを離れる際に、心の底からそういった人の大切さを再確認させてもらいました。

 人生とは不可思議なもので、ひょんなことから新たな指針が築かれ、時を経て振り返えってみると、点どうしが繋がって線になり、自分の人生を彩る星座のようなものが生まれていきます。私が現在の業務を開始したのは2013年の2月のことですが、その3ヶ月前は自分がインドにいるなど想像もしていませんでした。そして改めて今、インドでの業務を終えて、再びこれまで考えもしなかったようなフィールドに立っている自分がいます。

 せっかく生まれてきたのだから、どこまで自分が出来るのか試してみたいと思うはずです。誰もが自分の人生の主役になる可能性を持っています。いつまでも少年のように、尽きない好奇心を糧に、絶えず努力を怠らず、周囲の人々に感謝をしながら、自分の人生という一つのかけがえのないロマンを求めていければと思っています。

プロフィール:
石崎 弘典(いしざき ひろのり)
東京大学文学部フランス語フランス文学専修卒業、米国公認会計士試験合格。 在学中は休学して、パリ大学ソルボンヌに留学、音楽を中心にフランス文化を学ぶ。 2013年からインドの大手会計事務所に勤務し、日系ほか外資企業のインド市場進出支援を、税務・法務・財務の観点から支援。2014年度西インド地域の政府系機関専属アドバイザーも歴任。インドビジネスに関する知識を活かし、メガバンクなど(みずほ、政策投資銀行)が発行するビジネスジャーナルへの寄稿、また政府系機関(JETRO)や外資系銀行(HSBC)などが主催するセミナーへもスピーカーとして登壇。 9月よりシンガポールベースのベンチャーキャピタルRebright Partnersに入社し、インドを中心にアジアのスタートアップスタートアップへ投資を実施。
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