代表ブログフロンティア・フォーラム

日本をよくする提言から多様性を高める主張、ギャップイヤー文化構築提案まで、
多種才々なイノベーター達のエッセイ集

「アメリカのリベラルアーツ・カレッジで私が思うこと」廣瀬さん写真.JPG


廣瀬 百合子
米国・ローレンス大学3年

「きみには考えがあるのか。時間の無駄だからここに座っている必要はない。」

 大学1年の1学期目の授業中。他の学生が居る前で、教授からこの言葉を浴びせられて、私の頭は真っ白になった。「アメリカの大学生活はどんなものなんだろう!」と期待に胸を膨らませて渡米した直後、まさかこんなことを言われるとは思ってもいなかった。

 小学生の時、どんなに努力してもなかなか目に見える結果が出せなかったあの頃、担任の先生からはいつも、「そのままこつこつ努力すれば、いつか必ず成果が出ますよ。」と面接の度に言われた。「いつか必ずって、いつなの?そのいつかって今来たっていいでしょ。」と、当時は思っていた。

 友人の多くは塾や家庭教師を利用していて、「塾に行けばいいじゃない。」「家庭教師だと家に来てくれるから時間節約でいいよ。」と言っていた。しかし、私にとって、それは逃げ道だった。「分からなければ、とりあえず塾に行けば何とかなる。」「学校の授業が分からなかったら塾に頼れば良い。」その考え方が嫌だった。

 一生懸命働いてくれている親のお陰で学校に通えているのに、そこを「所属しているだけ」と割り切って、塾や家庭教師に頼る...「勉強ってそんなもんじゃないでしょ?」と、いつも思っていた。「成績を伸ばす為には塾が必要だ。」そんな法則みたいな考え方がとても嫌で、「塾に行かなくたって出来る。」ということを証明したくて、高校卒業までずっとその思いで勉強してきた。そして、15 年間、どんな日も1日も欠席せずに毎日登校した。毎日の約10kg の通学カバンのせいで、肩が疲労性骨膜炎になった時も、貧血気味だった時も休まず登校し、学内でも学外でも、今しか出来ない色々なことに精一杯挑戦した。

 「ひたすら努力をすること」
それだけが私の取り柄だ。

 大学入学後の1年目。図書館が閉まった後は寮の地下等で朝まで勉強して、時間がある度に教授を捉まえては質問し、忙しい上級生を申し訳ないと思いながらも捉まえては色々聞いて、「無駄でしょ。」と言われるくらい何度も本を読んで、「遊んでるんじゃない?」と言われるくらいパソコンの前で何時間も実験レポートや数字とにらめっこして...

 「自分なりに何かしらの形で授業に貢献したい。」
その一心だった。

 だから、あの時、あの場所で教授から言われた言葉から受けたショックはとても大きかった。授業後、質問事項を事前に書き込んだテキストを眺めながら思った。どうして人より何倍やっても、自分の思ったところに届かないのだろう...言われていること、求められていることは簡単な様でも、いざやろうとするとなかなか難しかった。生物学のクラスに至っては、教授に質問に行くと、「君は深く考えすぎだ。」
「その研究成果は未だに上げられていない。」と、聞けば聞くほど訳が分からなくなる時もあった。

勉強って何なんだろう。
何で自分は今、生物学を勉強しているんだろう。
どうして、自分はあえてここで勉強することを小さい時から夢みてきたんだろう...

 そんな思いが積もり積もった時、日本にいる母からこんな質問をされた。
「例えば、日本の大学に遠い異国から学部留学生として勉強をしに来た外国人学生が隣にいたら、どう思う?」
私は単純に、「よくそんな勇気あるなって思う。日本語で専門分野を学ぶなんて、とても大変だと思う。」と答えた。

母は言った。「それって今のあなたの立場と同じだと思わない?」

...そうか。

 急に自分の気持ちが軽くなった。その時初めて、自分を客観視した。
もっと気持ちに余裕を持ってもいいのかもしれない。自分を追い詰めなくてもいいのかもしれない、いや、追い詰めない方が良いのかもしれない。

 母の言葉を聞いて、「自分」についてもう一度よく考えてみた。そうすると、「自分の悩みは何て贅沢な悩みなんだろう。」と思えてきた。勉強したくても出来ない人もいて、アメリカに行きたくても行けない人もいて...そんな中でこんな最高の環境に自分が居られることが、どれほど恵まれているんだろう、と。

 たった私1人が生きて行くための「プロセス」に、どれだけ多くの人がサポートしてくれているんだろう。19 歳の私が望んでいることのために、どれだけの人が協力してくれてるんだろう。

 私は最高に恵まれているんだ、と身を以て感じた瞬間だった。
同じ様にアメリカの大学で勉強している、日本人の学部留学生の先輩や同級生のブログや記事を読んで、「やってやるぞ!」と思えてきた。当時、学内で自分が唯一の日本人学部留学生だったので、同じ経験をしている他大学の学部留学生のブログの存在は、私にとってとても大きなものだった。どんなに要領が悪くて時間がかかっても、人からどんなことを言われようと、「ここに来て本当に良かった。」と思える様に必死になろう、と思った。

 ローレンス大学に来て3年が経った。「もう3年」なのか「まだ3年」なのか自分でも分からないが、この3年間に経験したことは、どれも考えてもいなかったこと、想像してもいなかったことだらけだ。ただ、初心だけは今も変わらない。

 自分がやれる、できるかもしれないと思ったことは、自分以外の誰もが無理だと思っているとしても、自分を信じてやってみたい。

 「自分」が存在する人生...そんな人生を過ごしたい。

 卒業するまであと1年半、あの時にあの場で味わった悔しさ、母からの言葉を胸に、自分に出来る精一杯のことを、これからもやっていきたいと思う。


プロフィール:

廣瀬 百合子
福岡市出身。1994 年生まれ。
幼小中高一貫の私立女子校、福岡雙葉学園卒業。高校1年の夏から高校2年の
夏までの1年間、ロータリー交換留学生として、スウェーデンの国連スウェー
デン協会認可校の高校に交換留学。帰国後、高校2年に進級し、2013 年3月、
高校を卒業。同年9月、米国・ウィスコンシン州にあるリベラルアーツ・カレ
ッジ、ローレンス大学(Lawrence University)に入学。現在3年生で、生物
学専攻。
福岡県アンビシャス外国留学奨学生。
ブログ "Japanese Lawrentians" : http://lawrencejapan.tumblr.com
Twitter"Japanese Lawrentians": https://twitter.com/lawrencejapan
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Lawrentians-492235757609961/?ref=hl


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