代表ブログフロンティア・フォーラム

日本をよくする提言から多様性を高める主張、ギャップイヤー文化構築提案まで、
多種才々なイノベーター達のエッセイ集

「江戸時代に発祥した仕組み"富山の置き薬"でアフリカ医療支援 」町井さん1.jpgのサムネール画像


町井恵理
NPO法人 AfriMedico 代表理事

<<NPO法人 AfriMedicoについて>>
 私たちのNPO法人AfriMedicoは、「医療を通じてアフリカと日本を繋ぎ、健康と笑顔を届ける Medicine For The Last Mile」をミッションに掲げ、"富山の置き薬"をモデルにアフリカの医療支援に取り組んでいます。

 アフリカでは医療の課題が山積みです。道路が未整備で病院や薬局へのアクセスが悪く、簡単には診察を受けられません。診察を受けても効果のない偽薬が多く、保険制度がないため高い医療費となる現状があります。その解決策の1つになり得るのが「富山の置き薬」です。


●「富山の置き薬」とは?●
 富山の置き薬は、300年前の江戸時代から続く日本発祥のシステムです。家庭に幾つかの常備薬の箱を置いておき、使った分だけ支払うというものです。

 私は、「置き薬」のシステムがなぜ普及したのか富山県まで大学院の研究の一環として調査に行きました。普及した理由としては3つありました。

 1つ目は「医療インフラが整っていないこと」。アフリカでは病院までの道路の状態も悪くアクセスが困難なため、目の前にある置き薬はとても有用です。2つ目は「大家族」。家族で習慣や遺伝子なども類似し、病態が似ています。例えば、お父さんのお腹が弱い場合、子供にもそれが遺伝して同じようにお腹が弱くなるケースは多く見られます。そういった家族単位でサポートできるもの置き薬の特徴です。3つ目は「皆保険制度がないこと」。保険に入っている人は少ないため、医療費は高額になります。それに比べ、置き薬は診察費や交通費がかからないので、医療費が安くなります。

 これらの3つの要素がアフリカの現状に合致していると考えています。
 しかし、アフリカとは文化も違い、時代も異なります。今後は、現地の方々と共に日本の置き薬を『アフリカ版』&『現代版』に変えていこうと考えています。

 我々は日本の置き薬をアフリカに届けますが、他にも沢山の世界に発信するものがあると思います。我々が歴史ある「置き薬」を世界へ展開し、「日本の価値」を発信していきたいと考えています。


●NPO法人設立に至るまでの経緯●
 NPO法人設立に至るまでには、長い長い道のりがありました。まず、私が大学生の頃から振り返ります。薬学部だった私は、平日は実験があったため土日にバイトをしてお金をため、長期の休みごとにバックパッカーをしていました。

 バックパッカーでインドを回っていた時、マザーテレサの家でボランティアをしたのが、私の初めてのボランティア活動でした。主に孤児の子供の身の周りの世話をしましたが、ここから私はボランティア活動が始まりました。人に役立つことに嬉しさを覚えたのかもしれません。

 大学生から社会人になり、薬剤師の免許を取得して、私は製薬会社で働き始めました。社会人になっても休みの度にボランティア活動をしていましたが、短期では出来る事が限られ、自分の行ったことの振り返りもできず、独りよがりになっているのではないかと考え始めました。

 そして、長期的にボランティアをしようと2年間青年海外協力隊に参加することにしました。しかし、両親には大反対されました。

父親には「ボランティアをやって、その先に何があるんや?その先まで考えていないなら、辞めろ」と言われました。

母親には「ただただ、健康が心配。子供を戦争に送る気分やわ」とも言われました。私は「人の役に立ちたい」「支援したい」と思っているだけなのに、両親から理解は得られず、まるで犯罪でもしにいくのかのような反対ぶりでした。

 しかし、それは今思うと一種の「踏絵」なのかもしれません。本当にやりたいのか?反対されてもやり抜けるのか?を問われていたのだと思います。私はどうしても行きたかった。そこで、説得に説得を重ね、何とか親戚には内緒で西アフリカのニジェールに出発しました。今思うと、よく許してくれたなと思いますし、反対されたことで自分を見直すこととなり、親には感謝しています。

 ニジェールでは、マラリアやエイズなど感染症予防の啓発活動をしておりました。識字率が低いため、紙芝居やラジオで感染症の原因や対策などをお伝えしていました。

 2年間の活動の前後に村人120人にアンケートを実施し、自分の活動を振り返れるようにしました。

 その結果、村人のマラリアに対する知識は増え、20%から80%へと正答率が向上しました。しかし、知識を得ても現地の人に意識の変化は見られませんでした。例えば、マラリアの原因は蚊であるのに、蚊帳の中で寝ようという行動には至らなかったのです。

 この原因には、蚊帳を買うお金がない、父親が蚊帳を買うことに反対しているなど、一筋縄では解決されない多くの問題がありました。

 2年間のボランティア活動を通じ、知識を増やすことよりも、行動の変革が重要だと気づいた私は、この行動変革を起こせる社会の仕組みを学ぶべく経営大学院へと進学することにしました。大学院で学びつつも、何が出来るのだろうかともやもやしていました。しかし、最後の研究プロジェクトとして「アフリカの医療改善」をテーマにしたことで目指すものが明確になったのです。

 ただ、スタート時はアフリカや医療というテーマで集まってくれる人は、始めはゼロでした。暫くして、一人二人と手伝うという人が現れ、その人とさらに人集めをして、研究プロジェクトがスタート出来ることとなったのです。また、数か月ぐらいそのプロジェクトを進めているうちに、団体性が必要という結論にたどりつき、NPO法人を設立することとなりました。何よりもまずは一歩ずつ、進められるところまで進むことが大切だと思っています。

●今後の目標町井さん3.jpgのサムネール画像
 5年後の東京オリンピックまでに"置き薬の仕組み"をアフリカで構築します。東京オリンピックにおいて日本に来たアフリカのオリンピック選手や関係者が「母国アフリカで日本の置き薬でに助けられたことがある・・・」なんて言ってくれたらとても嬉しいです。

記事一覧

フロンティア・フォーラムトップページへ戻る

アーカイブ