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日本をよくする提言から多様性を高める主張、ギャップイヤー文化構築提案まで、
多種才々なイノベーター達のエッセイ集

「自分のためだけの服、というこだわり。」星野さん写真.jpg

星野雄三
東京大学大学院総合文化研究科
広域科学専攻生命環境科学系 修士2年

スーツ職人の"サルトリア文化"との出会い
「スーツの勉強をしにいきます。」

と友達に伝えると、もしくは初めて会った人にこのことを話すと、大体の人は面白がったり、「え?なんで?」といった反応をします。それもそのはずで、僕はこれまで大学で筋肉(筋生理学)について研究し、トレーニング指導を生業としていたからです。

 そのようなわけで、全く異なる路線変更を行い、今僕はイタリアの伝統文化であるスーツの職人=サルトリア文化を学ぶべくミラノにいます(文科省トビタテ留学JAPAN「第1期生」)。人生何が起きるかわからないもので、2年前だったら一切考えられないような世界にいます。あくまで今から職人やデザイナーを目指すわけではなく、文化そのものとビジネスを学ぶためにこの国にいます。

 実のところ、これまで僕は家庭環境的に「ファッション」・「芸術」・「ものづくり」といった分野とは一切関連のない生活でした。しかし、だからこそそういう能力・技術を持つ職人やアーティストにリスペクトを感じ、なんらかの形で関わりたい、と思うようになったのかもしれません。

 僕がスーツに興味を持ったのは、トレーナーをやっていたときに出会ったあるお客さんがきっかけでした。その方はスーツやジャケットで毎度くるのですが、なぜそこまで運動するのにそのような格好で来るのか、僕は彼に聞かないわけにはいきませんでした。トレーニングに加えて、その方が持つこだわりやスーツに関する話を菊につれ、僕は徐々にその方が好きになっていくとともに、その方がこだわっているスーツにも興味を持つようになったのでした。彼は真面目で話も示唆に富んでいましたからとてもトレーニングの時間はとても楽しかったのを覚えています。

 これまで「首は太く腕は短い、肩幅はほどほどなのに腕は太い。」という体型によってファッションに興味を持つことがなかったのですが、この出会いを契機にいつのまにかフルオーダースーツを頼むまでに至っていたのです。
 このようにして、スーツ文化に興味を持ったわけですが、一方で知れば知るほど、ある問題を知ることになります。

それは後継者問題です。

 スーツ職人=サルトリアが一流へとなるには40年かかると言われます。しかもそれはジャケットの話であって、パンツは含みません。つまり人間の一生じゃ間に合わない技術なのです。加えて、現代においてそれを学んだところで生計が立つかどうかもわかりません。こうした背景では当然若者も進路として選びにくいですから、後継者が育ちにくいのは当然の成り行きなのです。

 2000年以降、H&MやZARAといったファストファッションが流行して以来、その流れはもっと加速していて、いよいよサルトリア文化が一部の人だけの嗜みになってきてしまっています。ベテランと言われる人たちは定年を迎え、いよいよ育てる職人もいなくなってきているのです。

 僕が危惧しているのはこの文化を知る人間がこのまま減っていけば、イタリアのサルトリア文化は間違いなく廃れる方向にありますし、同じくして日本のスーツ文化も縮小していってしまう、ということです。

 もともと僕自身の必要性から出会ったオーダーメイドではありますが、このオーダーメイドというのは世界でたったひとつの服であり、これを着て働くことでより一層自分に自信を持ってもらう、そういうところに僕は美学を感じているのかもしれません。僕はファッションの国、イタリアでスーツ文化だけでなく、僕たち若い世代が失いかけている「ものに対する態度」そのものも学んでいきたいと思います。


プロフィール:
星野雄三
東京大学大学院総合文化研究科
広域科学専攻生命環境科学系 修士2年
TED
The outside is as important as the inside | Yuzo Hoshino | TEDxUTokyo
https://www.youtube.com/watch?v=Nuy0hMV36x4&list=PLsRNoUx8w3rN6PZ
xsYSYjueV5aL6qKqat&index=3

星野さんTED.jpg

ミラクエ
www.milano-quest.com

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