新着:「ノルウェーのギャップイヤー・プログラムには、斧投げ・航海術等を習熟するバイキング養成コースがある!?」(砂田 薫)
ギャップイヤー・プログラムのテーマはなんとバイキング!
9月3日に英国の高級紙「ザ・ガーディアン紙」に掲載されたノルウェーのギャップイヤー・プログラムが話題を呼んでいて、フェイスブックにより5000件以上のシェアがされている。それはなんとテーマがバイキング。
バイキングは、ウィキペディアによると、西暦800年 - 1050年の約250年間に、西欧州沿海部を侵略したスカンディナヴィア、バルト海沿岸地域の武装船団(海賊)を指す言葉。しかし、のちの研究の進展により「その時代にスカンディナヴィア半島、バルト海沿岸に住んでいた人々全体」を指す言葉に変容した。いずれにせよ、中世欧州の歴史に大きな影響を残している。
また、海賊や植民を繰り返す略奪経済を生業としていたのではなく、ノルウェーの考古学者・ヘイエルダールによれば、バイキングの多くは農民であり漁民であり、特に手工業に秀でており、職人としての技量は同時代においては世界最高のレベルという。バイキングたちの収益の98%が交易によるもので、航海の主たる目的は交易であり、略奪の方がむしろ例外的なものだったとされる。
専門学校の科目は、斧投げ、航海術、機織り!
さて、ノルウェーの首都オスロから西へ約140キロ、セヨール湖のほとりにある全寮制の高等教育機関「セヨール・フォルケホイスコーレ専門学校(Seljord Folkehøgskule)」が、今秋1年間の"バイキング養成コース"を立ち上げた。風光明媚な山々や湖に恵まれたこの専門学校は、バイキングの生きる知恵を学ぶには絶好のロケーションで、バイキング養成の環境としてはもってこいだ。美しいセヨール湖にはネス湖のネッシーのような「謎の生物」が棲むという伝説があることも好条件ともいえる。
8月末に、高校を卒業したばかりの元気な9人の男子、5人の女子が選抜され、入学した。高校後で大学入学前の無所属(入学していないので大学生ではない)のこのギャップイヤー生(gap year student)たちは、バイキングの生活には欠かせない造船、航海術、斧投げ、剣作り、アクセサリー・革製品加工の伝統工芸・技術などを1年かけて学んでいく。
苦肉の策としてのバイキング学コース誕生だった!
なぜ、このようなコースを設けたのかと疑問が生れる。もともとこの専門学校はハンドクラフト作りで知られていたが、人気がなくなってきて、教職員でブレストを行い、この人気企画のアイデアが生れてきたという。ブレストおそるべしである。
北欧は既報通り、半数が高卒後、いったん1年程度のギャップイヤーを取得する国々だ。そして、その選択肢として、このような寄宿舎付の folkehøgskule( folk high school、専門学校に近い)に入学する若者も多い。そこでは、学修や試験に囚われるのではなく、自立心やチームワークと言ったらライフスキルを習得することに主目的がある。
国の助成のお陰で、私立ながら授業費は無料、ただし、寮費・食費や研修旅行や教材は有料だ。 「セヨール・フォルケホイスコーレ専門学校」の場合、1年でおおよそ10万クローネ(約150万円)の費用がかかる。これを高いか安いかは、親や本人、あるいは社会の基準や価値観、規範によって変わるだろう。
公募でバイキング教員を採用!
ところで、誰が一連のバイキング学を14人のギャップイヤー生に教えるのかという素朴な疑問がまた起こる。それについては、2万6千回もフェイスブックでシェアされたフェイスブックの広告で公募したのだという。そして首尾よく、22名の応募者の中から、生涯をバイキングに賭けているデンマーク人で熱血漢のジェッペ・ノードマン・ガリア(36歳)さんという"現代のバイキングである"匠(たくみ)が見つかり、現在教鞭を執っているという。
彼はもともと、趣味で10世紀当時の衣装に身を包み、兜や剣を収集していた。また、鍛冶や彫金もでき、教職経験もあるという、俄かに信じ難いほどの幸運な人選であった。10世紀頃バイキングが勇敢に活躍していたときと違い、今は男女共同参画の時代だ。授業も好評で、女子ギャップイヤー生もアーチェリーや造船、機織と同様に、力仕事である木彫りや金属鋳造、パン焼きなどにもチャレンジしている。
伝統工芸学習は思考の拡張を生む(mind-expanding!)
最後に、1年のバイキング学を修めたギャップイヤー生は、どんなキャリアパスを選んでいくのだろうか。このコースを導入した学長は、「北欧でバイキング市場で産物を売ることはできるでしょうが(笑)、労働市場において、どれくらい習得したスキルが役に立つか正直わからない。しかし、ギャップイヤー生が何に関与しようが、価値はある。
例えば、伝統的なバイキングの武器を作ることを今学んでいるが、それこそ思考の拡張を生む (mind-expanding)。そこに学びはあるだろう。」と応えている。日本でも、各地方でそれぞれの伝統工芸を若者が1年で学べるギャップイヤー・プログラムが編成できるのではないだろうか。
ちなみに、同専門学校には「エベレスト登山のベースキャンプ準備」や「パラグラインディング・スキル」といったコースもあることがわかる。どうやら"文化系"のハンドクラフトから方向を変え、"体育会体質"になったようである。
(関連記事)
2015年8月1日付ス
「今秋から新たに10大学で"ギャップイヤー制度"が誕生する!」(砂田 薫)-代表ブログ http://japangap.jp/blog/2015/08/10.html
2015年5月15日付
文科省が平成27年度「ギャップイヤー・プログラム」の公募状況を公表~応募は38大学。選出は12件程度を予定 http://japangap.jp/info/2015/05/273812.html
2015年1月29日付
「ついに大学に、文科省の"ギャップイヤー予算"が付く!」(砂田 薫)-JGAP代表ブログ
http://japangap.jp/blog/2015/01/-27-httpwwwkanteigojpjpsingisouseikihonseisakudai2s6pdf.html
2015年7月25日付
海外ギャップイヤー事情 フィンランド編:「学術調査でギャップイヤーは学習成果を軽減するものでないと公表!」の巻 : http://japangap.jp/info/2015/07/-cio-1.html
※「海外ギャップイヤー事情」100超記事の一覧リスト(右ナビ)→http://japangap.jp/info/cat44/