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日本をよくする提言から多様性を高める主張、ギャップイヤー文化構築提案まで、
多種才々なイノベーター達のエッセイ集
【JGAPの「ギャップイヤー総研」だより】
グラフィックデザイナー ステファン・サグマイスター氏の1年休業は創造力の源泉!!~TEDのプレゼンから読み解く~
              
JGAPギャップイヤー総研客員研究員 中山真理子
(オックスフォード大大学院10月入学予定者)
 
ニューヨークをベースに世界で活躍するグラフィックデザイナーであるステファン・サグマイスター氏(注1)は、7年毎に1年間会社を完全に休業(サバティカル)する。どんなに情熱をもって取り組んでいることでも、時間が経つと飽きがきたり、燃え尽きてしまったりするからだ。その1年間は完全に仕事から離れ、普段できないような興味のある様々なプロジェクトに取り組んでいる。つまり、定期的にギャップイヤーを取るようなものだ。
 
一般的に、現代人は人生の最初の約25年は学び、次の40年で働き、そして残りの15年を老後に費やす。サグマイスター氏は、老後に当てられる15年の内5年を仕事の期間に分散しようと考えた。この休業期間は、自分の楽しみということだけでなく、その間に身につけたことや発見したことを、その後の仕事に生かすことによって、社会全体に還元されていくというメリットがあると主張する。
 
サグマイスター氏は、初めの1年休業をニューヨークで、そして2度目は、インドネシア・バリで過ごした。 2008年9月バリに到着して間もなく、様々なプロジェクトに取りかかった。家のまわりをさまよう野良犬をテーマにいろんなTシャツを作ったり、改装中だったニューヨークの仕事場用の家具を作成した。また、瞑想を始めたり、ずっと読めなかった本を読んだ。
 
他にも長期休暇を取ることで成功している人物として、世界最高のシェフとも言われているフェラン・アドリア氏がいる。スペインのバルセロナにある彼のレストランは、1年のうち営業しているのは7ヶ月間のみ。残りの5ヶ月は、厨房スタッフ全員で試作を行うことに当てられている。そのレストランでは1年を通して8千人にサービスが提供されるが、220万件の予約の問い合わせがあるという。この魅力は一体なんだろう。
 
サグマイスター氏は、およそ12.5%(7年に1年) を自分の充電のために使っていることになる。同じ方法で成功を収めている会社として、3MとGoogleが挙げられる。3Mのエンジニアは、1930年代以来、15%の時間を自分の好きなプロジェクトに費やし、その時間にスコッチテープやポストイットを生み出した。 またGoogleでは、20%の時間を個人プロジェクトに当てていることはよく知られている。人間やその人間が作る組織には、このような一見「ムダ」や「空白」と見なされてしまうところに実はギャップイヤー同様、"創造力の源泉"があるのかもしれない。
 
サグマイスター氏は、長期休暇を取ろうと決めたら、なるべく多くの周囲の人に宣言して、撤回できないようにするそうだ。そうやって、自分を追い込んでいく。  1年休業を取ることにより、楽しい時間が過ごせるだけでなく、自分の仕事に集中してまた一段とやる気が強くなるという。休業中の経験を通して得たものが、その後の7年間の仕事の糧となり、会社の業績や持続可能性にもプラスになっている。日本ではサバティカルはなかなかできない取り組みだが、実力のある人には有効だと思うがいかがだろう。
注1:オーストリア生まれ。ニューヨークを代表する実力派グラフィックデザイナー。業績ては、ルー・リード、デヴィッド・バーン、エアロスミス、ローリング・ストーンズなどのレコードスリーブが有名。そ2001年作品集『Made you look』が有名。ウィーン応用美術大学でグラフィックデザインの美術修士号、フルブライト奨学金でニューヨークのプラット・インスティテュートで修士号を取得。その後アートディレクター、ティボー・カルマンが主宰していたデザインスタジオM&Coで勤務、1993年にSagmeister Inc.を設立している。
(参考) TED: Stefan Sagmeister: The power of time off" http://www.ted.com/talks/stefan_sagmeister_the_power_of_time_off.html

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