代表ブログフロンティア・フォーラム

日本をよくする提言から多様性を高める主張、ギャップイヤー文化構築提案まで、
多種才々なイノベーター達のエッセイ集

「秋田発 ‐ 世界着 ~ 自分の限界と可能性を広げる2年」庄内さん写真.JPG

庄内 聡 (SATOSHI SHONAI)
JICA青年海外協力隊 平成24年度2次隊
コンピュータ技術職
バングラデシュ人民共和国派遣 人事省PACC(コンピュータセンタ)配属


活動紹介
 2012年9月よりJICA青年海外協力隊コンピュータ技術職として、南アジアのバングラデシュ人民共和国に派遣中、人事省の情報部門であるPACC(コンピュータセンタ)にて、PC・サーバー運用保守や職員を対象としたICTトレーニング・ワークショップを企画・実施しています。また、本活動とは別に、週末時間を利用して国内各地でPCトラブルを抱えている活動先を訪問し、課題解決・予防保守の啓発・各種相談を行う「出張PCメンテナンス隊」という活動を隊員有志で行っています。


きっかけは、東日本大震災
当時、あの未曾有の震災からわずか1週間後、私はベトナムにいました。現地の方から「日本は大丈夫?」と心配されたことをよく覚えています。その後、親族が宮城県に住んでいたこともあり、何か出来ないかと思って、有給休暇を使い、震災ボランティアとして何度か東北3県(岩手・宮城・福島)に足を運んでいました。その時、現地で私が目にしたのは、海外から仕事を捨ててまでして、ただただ日本の早期復興を願って来られたボランティアの姿でした。また、その後インターネットなどで知ったことですが、派遣国バングラデシュの小さな貧しい村からも当時義援金が寄与されていたのです。このような体験から、自分も何か恩返しが出来ないかと考えていた頃、ちょうど職場の先輩に青年海外協力隊OBの方がいて、背中を押してもらい応募に至りました。


"世界一"から"世界最貧"へ、そのギャップとは?
 私が派遣されているバングラデシュという国は、アジア最貧国の一つと言われるほどに深刻な貧困問題を抱えています。しかし、農村の貧困を撲滅すべくムハマド・ユヌス氏が創始したマイクロクレジット事業を筆頭に、数々の国際NGO、ODA機関による支援によって、今ではソーシャルビジネスの聖地とも謳われるほど、知る人ぞ知る注目国家に転身しつつあります。実際の光景は少し違っていて、とりわけ首都ダッカに住んでいると、日本人よりもむしろお金持ちじゃないかと思えるほどの富裕層の姿をよく見かけます。一方で道端には物乞いの障害者・子供たちが時に苦しそうな表情で、時に屈託のない笑顔で食べ物やお金をくださいと寄ってくるのです。日本に住んでいたら決して直視することのない悲壮な光景に、毎日否が応でも遭遇せざるを得ません。そんな光景が、現地では当然とされていること、そして自分もそれに慣れていくことが何より恐ろしいと感じました。私の職種・活動範囲ではほとんど関与できることはありませんが、少しでも何か解決の手立てはないか、そんな問いが常に頭の中を駆け巡り、いまだに足踏みしています。日本は戦後大きく成長・発展し、様々な分野で世界をリードする国の一つとなりましたが、この国に来て、逆に今の日本に疑問を感じる場面が多くなりました。貧しくても溢れ出る笑顔、家族を大切にする気持ち、自分たちの言語・文化・国を愛する心、日本が発展する中で置き去りにしてきたかも知れないものが、ここにはたくさんあるのです。


1.期待に応える、2.深く馴染む、3.生きて帰る
 これは、私が赴任当時に掲げた表明です。ボランティアとして来たからには職場の期待に応えること、2年も住むからには現地人との生活に深く馴染むこと、そして快く見送ってくれて帰りを待ってくれている家族・友人・知人のためにも現地での健康・安全管理に重きを置いて、無事に生きて帰ること、これらは今でも変わっていません。大したことではないと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、これらが今の私の支柱であり、目指すべきところなのです。青年海外協力隊での活動は、うまくいくことの方が少なく、現に私も多くの壁にぶつかりながらも、一日一つ達成できたら自分を褒めるように心がけていたりします。困難なことが多い分、初めに意思表明をし、心の支柱を築くことは、今の自分を奮い立たせるためには非常に役立つプロセスでした。


青年海外協力隊という道のりで得られたもの
 私は秋田県の漁師町育ちで、良い大学に入って、良い企業に就職して、30歳までには海外で働いてみたい、というなんともミーハーな気持ちがいつの頃からか備わっていました。しかし実は、いつもどこかで自分の限界を感じて、それでも可能性を探しての繰り返しでした。そして、そんなミーハーな夢を叶えたのは他でもない青年海外協力隊という選択肢です。職場を離れることでのブランクや戻る時の不安は今でも拭い切れません。それでも、ここに来なければ得られなかったものがたくさんあって、外に出てみて本当に良かったと思っています。青年海外協力隊に応募してから今に至るまでに得られたであろうものは、語学力はもちろん、これまで想像できなかった途上国での人脈、当たり前を簡単に覆してくれる異文化体験の数々、一生付き合っていけると思える仲間、そして何よりも自国日本に対する客観的な視野・思考力だと思います。今、あの時の"恩返ししたいという気持ち"が、ここまで自身の人生の糧になっていることを嬉しく思うとともに、海外に出て見聞を広める醍醐味を、身を以って感じています。「情けは人の為ならず」、私の好きな言葉です。そして何よりも、情報が簡単に手に入ってしまう時代だからこそ、"知っている"で終わらせず、自分の五感を十分に使って体験することに、これから意義が増していくのではないでしょうか? 体験することで、自分の限界も可能性も広がっていくのだと私は思います。

プロフィール:
名前: 庄内 聡
東北大学理学部、地圏環境科学科卒 2008年、日本電気株式会社(NEC)に入社。5年目にて現職参加制度を利用して2012年9月より青年海外協力隊に参加し、現在バングラデシュに在住。趣味は料理、週末一人旅。現地では「居酒屋庄吉」として現地在住者の胃袋を掴む。
Facebook: https://www.facebook.com/satoshi.shounai

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