代表ブログフロンティア・フォーラム

日本をよくする提言から多様性を高める主張、ギャップイヤー文化構築提案まで、
多種才々なイノベーター達のエッセイ集

Prof.Suzuki1Y2J5073.jpgのサムネール画像のサムネール画像"ギャップイヤー文化"について想う


鈴木崇弘
城西国際大学大学院 国際アドミニストレーション専攻客員教授

戦後の日本の成功と多様性
 日本は戦後、国と国民が一体となり、高度経済成長を成し遂げた。それは、方向性が一つで、明確であったからだ。その際には、日本は「単一民族からなる社会」であるかのようなイメージ(注1)が喧伝されたこともあった。そして、そこでは多様性よりも、国と国民が一丸となり、社員と会社が一丸となり、国と企業が一丸となり、懸命に働くことで、経済の規模が拡大し、その結果、多くの国民も多くの企業・組織や社会も、多くの利益やメリットを得ることができた。そして、そのことが国民や企業の意欲を高め、経済が拡大し、日本は豊かになった。それは事実だ。
その意味では、その頃までの「多様性」を抑制して、日本社会を発展させるやり方は、間違いでなかったと思う。他方、そのために、日本での多様な生き方や多彩な価値観は抑制されてしまった。

 だが、そのような手法は日本が豊かになりだし、その次の時代の社会設計をどうするかという段階、それは多分1980年代の後半ぐらいになると、行き詰ってきた。ただ、その頃以降、日本はバブル経済の時期に向かい、社会全体が浮かれてしまい、次の段階への移行の仕組みやそれに対応できる国民の新しいマインドセットを、それが必要であるにも関わらず(注2)、構築できなかった。
  そして起きたのは、バブル経済の崩壊。そして、その後現在までに至る20年ぐらいの混迷と低迷(注3)。


 
日本の混迷、明治維新の成功と多様性~江戸時代は300諸藩あった
 なぜ、そのようなことが起き、こんなにも長期に続いているのか。
  私は、それは日本に「多様性」、「ダイバーシティー」がないために、従来のやり方が有効でなくなったときの、別の一手、別の方策がでてこないからだと考えている。
  日本人は、国難に直面し、江戸封建制を壊し明治維新を成功させた立役者やその時代の日本人の活躍が非常に好きだ。そして、そのような時代があったのだから、日本人は、いざとなれば、幕末の志士のような人物が現れ、どんな国難も乗り越えられる、と考えているようだ。

 だが、よく思い出さないといけないことがある。それは、江戸時代は300諸藩があった。しかも当時の各藩は、ある意味別の国であり、別の言語、別の文化、別の価値観などを有していた。江戸時代末期から明治初期にかけて、その藩(国)の踵がなくなり、別の価値観を持つ多様な人材が交流し、ぶつかり合い、競争し、つまり「多様性」が化学反応を起こすことで、明治維新が起き、日本は近代化への成功の流れに乗ることができたのだと思う。
 私は、明治維新が国難と多くの問題にも関わらず、大きな成功を収められたことの重要なキー(鍵)の一つ(注4)は、そのことに示されるように、実は「多様性」ではないかと思う。
 ところが、翻って現在の日本はどうか。本稿の前半で述べたように、「多様性」を抑制し、成功してきたゆえに、「多様性」がなくなってきているのではないか。その「多様性」が相変わらず生まれていないために、日本は混迷と低迷を続けているのではないか。


これからの日本と多様性
 その意味から、現在の日本に可能性を生みだし、現状を抜け出し、新しい社会をつくっていくためには、日本に「多様性」を再度生むことが必要だと思う。
 そのための一つの方策として、若い世代に若いうちから多くの経験や多様な機会を得られるようにする「ギャップイヤー(文化)」の構築が必要ではないかと考えている。
  日本は現在大変厳しい状況にあり、多くの問題や課題がある。これまでの方策や考え方はもはや有効ではない。ということは、若い世代が、この日本をつくりかえ、新しい日本社会を構築していくことができることである。その作業は、容易なことではないが、やり甲斐があることであり、若い世代の存在意義が求められていることでもある。これからの日本社会をつくるのは、当然これからより長く日本社会で生きていく若い世代の仕事だ。
 その若い世代には、若い時から、多くの多様な経験をしたり、多様な考えや価値観をもつ人々と多くの交流の機会をもち、自分の中に「多様性」ももってほしい。それが、自分が困ったときに、ブレークスルーを与えてくれるはずだ。そして、その一つ一つのブレークスルーの積み重ねが、組織を変え、地域を変え、日本を変え、世界を変えてくれるはずだ。
 私自身、若い時にマレーシアやアメリカに留学し、経験したことが、日本の政策形成を変えたいという現在の気持ちやその思いを十分には実現できていないが今もその実現に向けて活動を続けられている心の支えになっていると確信している。


 
おわりに
以上のようなことから、多様な経験や多様な考え方を持つのに貢献できる「ギャップイヤー(文化)」が、日本の若い世代に広がっていくことに大いに期待している。
  そして、日本の未来の可能性を生みだしていこう。 

【脚注】
(注1)それは事実に反する。日本は、歴史的にも多くの民族が交わって社会であるし、アイヌ、在日韓国・朝鮮人、その他の多くの民族や外国人が存在する。
(注2)その動きがまったくなかったわけではない。それは、たとえば、80年代の後半ぐらいから、非営利セクターやNPO・NGOなどへの関心が生まれてくることに表れている。
(注3)小泉政権のような試みもあったが、民主党政権の混乱に象徴されるように、その混迷と低迷は今も続いているといっていい。
(注4)その他に、江戸時代における教育のレベルの高さなど多くの要因があるが。

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