代表ブログフロンティア・フォーラム

日本をよくする提言から多様性を高める主張、ギャップイヤー文化構築提案まで、
多種才々なイノベーター達のエッセイ集

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「世界で働く日本人が増えるための条件」を考える

 

 

 

田島麻衣子

WFP 国連世界食糧計画  プログラムデザイン・サービス部門モニタリング評価チーム

(ローマ在住)

 

 

 現在、WFP 国連世界食糧計画の本部(650)のローマで、世界中の危機に対応するために提案されてくるプロジェクトの承認プロセスに携わっています。パキスタンの洪水、リビア動乱、パレスチナガザ地区空爆など、世界の動きに対応した迅速な対応が求められ、ほぼ連日、地球上のどこかの現場及び地域事務所と衛星中継で繋がる毎日です。

 

世界中のプロジェクトの認証プロセス」に深く関わる日本人はひとりのみの状況

 

 このプロセスに関る本部の実動部隊で日本人は私一人のみ。アメリカ人、フランス人、ドイツ人、南アフリカ人等、多種多様な出身の同僚達と働いています。今後より世界で働く日本人が増えることを願って、今回は3つの提言をします。一点目は、とにかく一度日本を静かに「外」から眺める環境に自分を置いてみること。二つめは、価値観で世界と繋がるということについて。三つ目は、日本の良さを認識し日本人としてのぶれないアイデンティティーを持つことです。

 

日本を静かに外から眺めてみることの重要性

 

 近年の日本の電化製品や乗用車の輸出によって、世界中の人々は私達が予期するよりも遥かに日本という国の存在を知っていると思います。アフリカで最も重宝されている乗用車の一つは、日本車です。世界各国から連日ローマに押し寄せる観光客が手にしているカメラは、そのほとんどが日本製です(最近は韓国に取って代られそうな気配ですが)。また、私が学生生活を送ったオックスフォード大学院の書店には、ミケランジェロの絵画に並んで日本の浮世絵が並べられ、世界から集まった学生達にかなりの人気でした。

 

 反対に、日本人の対世界に関する現在の意識はどうか。やはり多くの点で内向きである傾向が強いと思います。これにはやはり理由がある。まず日本語で手に入る世界の情報が、スピード・量・質の点でかなり限られていることが挙げられます。日本のメディアが流す海外の情報は、まず海外のそれとは比較にならないと考えた方がいい。また国内には外国語に対する一種のアレルギーがあって、これも内向きのベクトルに拍車をかけている。加えて、現在の社会制度が冒険を完全に許容するように出来上がっていないことも原因の一つかもしれません。実際いくつかの国に住んでみて、国境が陸続きで人々が日々往来し合うような国に比べ、日本の海外との壁はとても厚いと感じました。このような中で、日本に居ながら、この国が現在世界でどのようなポジションに置かれているのかについてのフェアな理解を持つのは容易でないと思います。

 

 できれば、体力気力が充実している若い時に、先進国・発展途上国双方に一人で飛び込む経験をすると良いと思います。留学、貧乏旅行、手段はいろいろですが、一度日本という国を外から静かに眺めることの出来る環境に自分をおいてみることを薦めます。そして飛び込む先は、地域・発展の度合いに多様性を持たせること。私は、学生時代はフィリピンの農村やスモーキーマウンテンを訪れ、アメリカとイギリスに留学しました。留学中に国連の就職試験には合格しましたが、実際の就職までは時間があったので、パリに貧乏遊学することを決め、各方面でプロを目指す志ある(しかし同じように貧乏な)若者達に出会いました。異なる環境に一人で飛び込むのは、ショックも大きいですが、それと同じ位、発見や驚きも大きい。地球は、私達の小さな想像を超え、遥かに豊かで深い気がします。これを味わってみないのは、勿体ないです。

 

価値観で世界と繋がる

 

 東南アジアのラオスという国に4年間住みましたが、多国籍のスタッフで構成されるチームと働くうちに、価値観を通じて彼等と繋がる、ということを覚えました。あまりにそれぞれが多様であるために、日本でよくある同じ年代、同じ学歴、同じ性別といった共通の括りでコミュニティーをつくることが出来ない。試行錯誤する内に彼等と私を繋げているのは、価値観、つまり何が大切でだから何故この場所にいるのか、ということだと思いました。その部分でしっかり繋がったチームは強い。より本質に近い気がしました。

 

 いまだ世界は多くの面で、セグメント化された状態にありますが、しかし情報の流れがより円滑になり、各都市がより短時間で繋がる中で、価値観を通じて世界が繋がるという傾向は、より強まるだろうと思います。どの国籍であろうと、どのような外見を持とうと、自分が大切に思うこと、自分が正しいと考えることを基軸に、グループが既に出来ている。この様な流れに、受け身にならずに積極的に参加できたら面白いと思います。

 

日本人としての誇りをぶれずに持つ

 

 海外に出てほぼ10年が経過し、先進国途上国双方を含む計5カ国に暮らしましたが、その中で一つ学んだことは、どんなに長くその土地に暮らし、その場所の生活習慣に馴染んだとしても、私はその土地の人々より「日本人」以外に見られることはないのだということでした。また、あらゆる国籍の人々が集まる国連という場で、多様な文化背景を持つ同僚達と仕事を続けてゆく中で、彼等から信頼を勝ち得る手段は、仕事の面でプロに徹することは言うまでもありませんが、他の誰になろうというものでもなく、日本人ということに誇りを持ちつつ、彼等の文化に興味を持つということでした。ここが揺らいでしまうと、あまりに個性あふれる集団の中で流されてしまう。逆にここがぶれないと、どのような集団の中にも抵抗なく入っていける。外(海外)に目が向けば向くほど、内(日本)にも同等の興味が湧くというのは事実だと思います。

 

 違うことは違うと受け入れ、それを尊重し、同じ価値観で一致団結し前進する。世界のどの場所に出ても、誰と働くことになっても、この気持ちの持ち方は変わらないと思います。

 

 

【略歴】

2006年よりWFP  国連世界食料計画勤務。2007年から2011年までラオス人民共和国。2011年9月よりイタリア本部勤務。前職は、新日本監査法人(国際部KPMG)。オックスフォード大学院修士課程修了。

ブログ:http://maiko-tajima.jimdo.com/        

 

【WFP国連世界食糧計画(以下WFP)とは】

 今日世界には、すべての人々が健康で生産的な生活を送るために必要な栄養分を摂取するのに十分な食糧がある。しかし、世界の人々の7人に1人を苦しめている飢餓の撲滅を任務とし、最前線で活動する国連機関WFP緊急事態においては、WFPは前線に立って食糧支援を実施し、紛争、自然災害の被災者の生命を守る。緊急事態の危機が去った後は、食糧支援を通じて、破壊された生活の再建に取り組む地域社会の支援に当たっている。1963設立、本部ローマ。毎年平均して80ヵ国以上の約9,000万人へ食糧を届けている。その中には、難民や国内避難民も含まれている。職員数は、約1万人、その92%が現場で食糧配給やモニタリングなどを行っている。WFPは国連主要機関の中で最大の予算を組んでいるが、最少人数の本部職員と最低の間接費で活動して、経費は平均すると予算全体のわずか9パーセント。WFPが行なう食糧支援は完全に任意の拠出のみで、人道支援・開発活動を行っている。飢餓撲滅のため、WFPと国連食糧農業機関 (FAO) は機能を別にし、2本立てのアプローチを採っている。
 WFP
の任務は短期的な問題の対応で、飢餓に苦しむ貧しい人々に食糧を配給し、飢餓と貧困のサイクルを断ち切る。一方、FAOは飢餓撲滅のための長期的な国際的な取り組みを展開、先進国および開発途上国の双方を対象に、中立的なフォーラムとしての役割を担っている。

(出所:WFPウェブサイトより、抜粋)

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