代表ブログフロンティア・フォーラム

日本をよくする提言から多様性を高める主張、ギャップイヤー文化構築提案まで、
多種才々なイノベーター達のエッセイ集

「ブータンで幸せの意味を考える1年~リスクは自分への投資」高橋孝郎さん写真.JPGのサムネール画像


髙橋孝郎
(ブータン政府2代目首相フェロー) 


30歳目前で迎えたギャップイヤー
 僕は今ブータン政府の首相フェローとして働いています。首相フェローとは、ブータン政府の役人として、専門知識を生かしながら1年間ブータンの発展に貢献するというプログラムです。「首相フェロー」と言うと聞こえはいいのですが、待遇はブータンの国家公務員なので月給は2万円。生活費を考えると、ほぼボランティアです。30歳目前の時期にこの待遇でブータンに飛び込んだことは、まさにギャップイヤーにあたるのかもしれません。リスクの高い決断だと見る向きもあるでしょう。実際に親には「その給料で将来設計が成り立つのか」と心配されました。


"リスクは自分への投資"と考えればリスクではなくなる
 僕はこれまでのキャリアの中で、客観的に見るとリスクの高い決断をいくつかしてきました。前職で経営コンサルティング会社のマッキンゼーに勤めていたとき、入社2年目にドイツオフィスに転勤したのですが、当初は1年間の予定でした。しかし海外で様々な国の人々と共に働く面白さに魅入られたため、ドイツオフィスに残る方法を模索。結果、雇用契約を日本オフィスからドイツオフィスに変えることにしました。つまり、「転籍」です。前例がなく、帰国子女でもない僕には勇気の要る決断でしたが、結果的に海外勤務を長く経験することで得た英語力や人脈は大変大きいものでした。

 次の決断は、マッキンゼーを辞めて自費留学で国際関係の大学院に行くことを決めたことです。マッキンゼーに残れば収入も安定しましたし、留学するとしてもMBA(経営学修士)に行った方が卒業後の安定性は高い。しかし、自分の興味を追求した方が長期的には資すると考え、かねてから関心のあった途上国開発を勉強することにしました。そして大学院卒業後の進路として選んだのがブータンでした。

 これらの決断に共通するのは、自分では必ずしもリスクを取ったとは思っていないこと。その都度自分がやりたいこと、モチベーションが湧いて打ち込めることを選んできたので、自分にとっては他の選択肢の方がリスクが高かったのです。財政的には厳しい選択肢でも長期的には自分への投資と思ってきたので、リターンを意識した決断だったとも言えます。


"相談はする"、でも人生の選択は自分で決めるもの
 これらの転機を決して独りで決めて来たわけではありません。常に、その分野の先輩や家族に相談をして多面的な意見を参考にするようにしてきました。しかし大切なのは、最終的には自分で納得して決めるということ。「人に勧められたから」という理由で決めてしまうと覚悟が決まらず、自分の失敗を他人のせいにしてしまうことになります。


アンテナを常に張ることでつながった"2代目首相フェロー"
 ブータンに話を戻すと、GNH(国民総幸福)という考え方を学部時代に知ったときから、ずっとブータンには関心を抱いていました。とはいえ、観光で訪れるのも簡単ではない国で働く機会はそうそうありません。興味の灯は絶やさずに、ブータンへの関心を周囲にも話し続けていたところ、大学院卒業間近に母が、日本の新聞で「ブータン初代首相フェローとして働く日本人女性」の記事をたまたま見つけ、教えてくれたのです。またとない機会と思い、初代首相フェローの御手洗瑞子さんに連絡を取り、首相に推薦して頂く幸運に預かりました。ブータンへの想いを持ち続け、それを周囲にも伝え、アンテナを張り続けたからこそ訪れた幸運でした。


死を意識することで今を幸せに生きる
 ブータンでは学ぶことがたくさんあります。ブータン仏教では「輪廻転生」を信じているので、現世は前世から来世へと脈々と繋がる流れの中にあります。やがて来る現世の死を自然なものとして受け入れているのです。死を意識することで、今の生き方が変わってきます。自分が死ぬ場面を想像したときに、どんな思いで死にたいでしょうか。もしくはお葬式で皆に何と言われたいでしょうか。それを考えると、人生の優先順位が見えてくると思います。ブータン人で尊敬する校長先生がいるのですが、熱血肌の彼女がくれた心を揺さぶる言葉があります。「私の寿命は今日尽きても、私に悔いはない。今日、私にできることの全てに、私は全力を尽くしているから」。


ギャップイヤーで"差別化"を図る
 次の仕事のあてもなく、目算ない形でブータンに来たのですが、幸い次は世界銀行グループのIFC(国際金融公社)で働くことが決まりました。面接で注目されたのは、ブータンでGNH(国民総幸福)のために働いているということ。他の候補者とは違う経歴に目が留まったようです。ギャップイヤーを過ごすのであれば、大勢が過ごすような道ではなく、他者と差別化が図れる過ごし方を意識したほうがよいと思います。そして大切なのは、目の前のことに一生懸命誠意を尽くして取り組むということ。どこで何をしていても、それを見てくれている人が必ずいます。必ずしも先が見えない状況でも、目の前のことを一生懸命に行うことで開けてくる道があると思います。皆さんのご活躍をブータンよりお祈りしています。


プロフィール
髙橋孝郎
 京都大学法学部卒業。学部時代は模擬国連サークルに従事。マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社後、東京、ドイツ、エジプト、リビア、サウジアラビア、台湾などで主に金融のプロジェクトに参加。退職後、米ジョージタウン大学の外交政策大学院で途上国開発の修士号を取得。卒業後、ブータン政府の首相フェローとして中央銀行で金融を通じた貧困削減に取り組んでいる。

ブータン・ブログ Appreciate Happiness: http://thanks2happiness.blog.fc2.com/
Twitter (@taktaktictac): https://twitter.com/#!/taktaktictac
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