代表ブログフロンティア・フォーラム

日本をよくする提言から多様性を高める主張、ギャップイヤー文化構築提案まで、
多種才々なイノベーター達のエッセイ集

「若者はcomfort zone を越えろ~彼女の葬式で自殺を考えた人間が、北米白人社会に挑戦しながら思ったこと」


やす
※ICUから米国・リベラルアーツカレッジに編入。バンクーバー神学大学院、トロント大学大学院を経て、現在シンガポール在住


生年月日が同じだった彼女の死
 高校を卒業した年の秋、高校時代に付き合っていた人が亡くなった。高2のときに彼女のガンが発覚してから、目まぐるしく色々なことが起きてしまった。現実はドラマのように単純じゃない。色々な人や問題が入り込み、僕は彼女と別々の道を行くことを余儀なくされ、ある日、一本の電話で、生まれた日が全く同じだった彼女の死を知らされた。

 生まれて初めて本当の悲しみや混乱や怒りを体験したのが、この頃。自分と同じ日数を生きてきた彼女が突然消え去り、自分だけが月日を重ねていく日々。人生でただ一度、自力で立ち上がる力さえも砕かれた。


本をむさぼり読む生活は、今の糧(かて)に
 当時の僕は、激しい混乱の中にあり、大学には入学していなかった。様々な感情につぶれそうになりながら、本をひたすら読み漁(あさ)り、それを毎日記録して過ごしていた。今では、そのことをマイナスには捉えていない。僕の生き方は、この時に培った信念に支えられているからだ。

 その後、倫理学、政治哲学、教育学、聖書学などを学んで成人教育、リベラルアーツ教育に関わる仕事をしたいと思い、800冊以上の本を買った。300本近くの論文やエッセイを書きながら、国際基督教大学(ICU)、アメリカのリベラルアーツカレッジ、そしてカナダのバンクーバー神学大学院とトロント大学院で学問の訓練を受けた。


カナダの教会で、"非英語ネイティブ"初のリーダーに
 そのうちカナダの教会(ユナイテッド・チャーチ・オブ・カナダ)に縁ができ、そこでリーダーの一人として働くことになった。最初はバンクーバー、そのあとに白人の村、トロントに派遣され、多くの人たちと関わった。

 アジア人の僕でも役職についてしまえば、100人、200人が集まる組織のリーダーの一人。「白人以外で初めて」、「非英語ネイティブは初めて」などと言われ、注目されながら仕事をするプレッシャーはすごかったけど、大勢の前でメッセージを話したり、教育関係のワークショップをしたりすることは好きだったので、そこでとても高い評価を受けて、何とか乗り切った。

 人間の存在そのものに深く関わる仕事なので、最高の瞬間と同じくらいの数の失敗もあったし、喜びと同じくらい辛いことも味わった。でも、これらの体験の積み重ねから身に着いたものは、とてつもなく大きい。


若者はcomfort zoneを越えよ!
 僕が海外に飛び出したのは、自分のcomfort zone(心地よく思えたり、扱えたりする範囲)から出たかったからだ。ICUでの生活は快適だったけど、自分が「優秀な人」として評価される場所に留まっていたら、自分の成長の速さは衰える。そう思って、もっと厳しい環境を求めて海外の大学に編入した。

 アメリカでは、中高の講師、中学生サッカーのコーチ、カナダでは、路上生活者のコミュニティー形成、サッカーでホームレスワールドカップ出場など、学業や仕事以外でも、自分の能力で安心して務まる範囲を積極的に飛び出した。心地よく扱える範囲を超えて挑戦しているのだから、当然、大変なことばかり。けれども、その分、人間としての幅が広がり、自分の本当の力も客観的に見えていった。

 僕は、自分のcomfort zoneの外に踏み出すことを、今の若い人にも恐れないでほしいと思う。快適さの檻(おり)に閉じこもっていては体験できないことを、失敗や挫折を含めて積極的に体験してほしいと思う。そして、そこで自分の信念を育(はぐく)み、思考や感覚を研ぎ澄ませ、自分という存在を深く知り、のちに自分が望む舞台で人生の勝負をしてほしいと思う。

 彼女の葬式に出たあと、僕は自分自身が嫌になり、人があきれるほど長い間、大学にも入学せず、就職もせず、札幌の公園で毎日一人で泣いていた。あれから10年以上が過ぎ、最近ようやく「自分は変わった」、「彼女に自分の今を見せたい」、そう思えるようになった。

 人は誰もが成長していくし、変わっていく。けれども、他人と違った速さで成長したければ、もっと広い地平線が見たければ、comfort zoneの外に出ることを恐れてはいけない。僕は今、シンガポールで世界各国の人と共同生活をしながら新たな道を探している。これからも、そのことだけは忘れないで未来を紡(つむ)いでいきたい。


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ブログ 『Let Your Life Speak』: http://doh-je.blogspot.com
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