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日本をよくする提言から多様性を高める主張、ギャップイヤー文化構築提案まで、
多種才々なイノベーター達のエッセイ集

「日豪ギャップイヤー制度における3つの違い〜国際教養大学とキャンベラ大学の場合 」渡部北斗さん写真.jpg

国際教養大学 渡部北斗

 先日、オーストラリアでの約1年間の留学生活が終わり、無事に帰国することが出来。滞在中は病院のお世話になるような病気や怪我にかかることもなく、大学の授業であったり、自転車でのオーストラリア横断の旅であったり、学校生活・課外活動ともに充実した時間を送ることが出来ました。「成長したか?」と聞かれると、「まだ実感できていない」というのが正直なところです。

 では、本題へ。

 

 先日、このような記事を目にする機会がありました。
Gap years to Australia on the rise: gapyear.com (http://www.gapyear.com/news/182961/gap-years-to-australia-on-the-rise)(ギャップイヤー先としてオーストラリアが人気増)

 簡単に要約すると、

 オーストラリアはバックパッカーや旅行者に加え、ギャップイヤー先としても人気。理由の1つはワーキングホリデー・ビザである。ギャッパー(ギャップイヤーをする人たちのこと)は旅行や就業体験を旨く組み合わせてギャップイヤー体験をすることが出来る。最近の調査では、18-30歳を対象としたワーキングホリデービザへの応募数が前年同期比で7%伸びている。加えて、2次(延長?)ワーホリビザへの申請は29%と大きく増えている。

 ギャップイヤーというと途上国での国際貢献活動へ目が向きがちですが(私」もその一人です)、オーストラリアをはじめとした途上国以外での活動も、貴重な体験になると思います。途上国でなくても国際貢献は出来ますしね。特にオーストラリアは(石炭がメインのエネルギー源なのでCO2の排出量は多い方ですが)環境問題に意識を置いている人が多い気がするので、その人達と一緒に植林活動とか環境保全系の活動に取り組むのも良いのではないでしょうか。

 ギャップイヤー先としてのオーストラリアについての記事を紹介してみましたが、オーストラリアの学生がギャップイヤーをする場合、どうするのでしょうか。できれば私が留学したサンシャインコースト大学でのギャップイヤー制度を紹介したいところですが、サンシャインコースト大学ではギャップイヤーを制度としては用意していないようなので、今回はオーストラリアにあるキャンベラ大学の制度を紹介したいと思います。また、オーストラリアと日本の大学が提供するギャップイヤー制度にはどの様な違いがあるかを比べるために、所属している国際教養大学の制度を紹介します。

2大学の紹介
両大学の制度を比較する前に両大学について。

キャンベラ大学http://www.canberra.edu.au/
所在地:キャンベラ(オーストラリアの首都)
区分:公立大学
設立:1990年
生徒数:12,000人前後
学部:  Applied Science(応用化学学部)
     Arts and Design(芸術/デザイン学部)
     Business, Government & Law(経営/政治/法律学部)
     Education(教育学部)
     Health(保健学部)
     Information Sciences and Engineering(情報科学/工学部)

国際教養大学http://www.aiu.ac.jp/
所在地:秋田県秋田市雄和
区分:公立大学
設立:2004年
生徒数:800人前後
学部:Liberal Arts(国際教養学部)

 規模はかなり違いますが、どちらも比較的新しい公立大学という点で共通しています。
 先日、新設大学の認可を巡っての騒動(http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121108-00000550-san-soci)を発端に、日本の大学の数や質について再注目されたことは記憶に新しいかと思います。日本では大学が750校前後(国公立:150前後、私立:600前後)あるのに対し、オーストラリアには大学が40校前後しかありません。しかも私立はそのうちの4校だけです。多い方がよいのか少ない方がよいのかは別として、大学の数という点では日本とオーストラリアで状況が異なるのは明らかです。

そして、今回この両大学の「ギャップイヤー制度」を比べてみるわけですが、
(両校比較表:両校HPより筆者作成)
渡部北斗さん図表.pngのサムネール画像

簡単にまとめると右表のようになります。

違い1:選抜方法
 まず大きく異なるのが選抜方法です。
国際教養大学は、AO入試や推薦入試と同じ日程で「ギャップイヤー入試」を行なって受験生を募り、合格者は大学へ入学が許される9月までのギャップイヤー活動を計画し、実行します。

 それに対してキャンベラ大学の場合は、キャンベラ大学進学の許可を得た学生が、自由に選択して入学時期を遅らせることが出来ます(大学入学延期制度)。そして、その遅らせた期間を使ってギャップイヤー活動を行なうことになります。

*オーストラリアの大学進学方法は日本の仕組みとは大きく異なります。詳しくはこちらのブログが説明してくださっていますので、是非参考にしてください。(オーストラリアジャット留学センター:http://blog.livedoor.jp/jatcentre/archives/1488282.html

違い2:単位変換時の科目名
 どちらの大学入学を控えたギャッパー(ギャップイヤー活動を行う人)も、ギャップイヤー活動を通じて3単位を得ることが出来ます。しかし、単位として得られる科目の名前に違いが見られます。

 国際教養大学の場合は、ギャップイヤー期間中の活動をCCS200 Internshipという教科の単位として変換することが出来ます。このInternshipという教科は通常、EAP(入学直後の学生が必修の英語集中プログラム)修了後の学生向けの教科です。インターンシップを行なう場合の流れとしては、インターンシップ先検討段階で、事前にインターンシップ用ガイダンスへ参加した後、合計80時間以上インターンシップを行ない報告をすることで、単位を得ることが出来ます。

 対してキャンベラ大学の場合は、Gap Experience and Reflection(ギャップイヤー経験とふり返り)という正課として単位を得ることが出来るようです。国際教養大学のようにインターンシップと同じ扱いとしてではなく、Gap Experience and Reflectionという科目が用意されています。(Unit: http://www.canberra.edu.au/coursesandunits/unit?unit_cd=8466)

 単位として変換される科目名の違いは、本当に小さな違いでしかないと思います。ただ、母校ではギャップイヤーを行なう学生が、必ずしも企業や団体の元でインターンシップを経験するわけではないので(例:語学学校や個人ボランティア、旅など)、ギャップイヤー期間の活動が「インターンシップ」として変換されるのには正直違和感があります。こういうところにも、日本とオーストラリアにおけるギャップイヤーに対する認知度の違いが出ているのかもしれないですね。

違い3:単位変換への流れ
 国際教養大学の場合、ギャップイヤーを行なう学生は入試段階で計画書を提出し、合格内定後、2月に行なわれる「ギャップイヤー活動計画発表会」へ参加。そして約半年の活動を行ない、9月の入学後に「活動報告会」にてプレゼンを行なうことで、3単位を得ることが出来ます。

単位変換へのフロー(国際教養大学の場合)
1.願書とともにギャップイヤー計画書を提出
2.ギャップイヤー入試に合格
3.ギャップイヤー活動計画発表会へ参加
4.半年間のギャップイヤー活動
5.入学(9月)
6.活動報告会にてプレゼンテーション
7.「CCS200 Internship」として3単位認定へ

 キャンベラ大学の場合は、キャンベラ大学への進学が認められた学生が、申し込みフォームから、入学時期を延期してギャップイヤー活動を行う意思を大学側に伝え、大学の担当者とキャンパス内(またはオンライン)で面談を行なった後に、ギャップイヤー活動をし、活動の報告をすることで3単位を得ることが出来ます。

単位変換へのフロー(キャンベラ大学の場合)
1.大学への進学許可通知を受けとる
2.申し込みフォームからギャップイヤーを選択する意思を表明
3.大学担当者と面談
4.半年〜1年間のギャップイヤー活動
5.活動の報告
6.「Gap Experience and Reflection」として3単位認定へ

最後に
 ここまで、キャンベラ大学と国際教養大学のギャップイヤー制度を比較し、3つの違いを紹介してきました。違いばかり紹介してきましたが、共通点も紹介したいと思います。それは、ギャップイヤーを通して得られることです。

 まずはキャンベラ大学が挙げている、ギャップイヤーを通して得られることは以下とされています。

Students can gain: - 学生が得られること
•maturity and perspective -(思考的)成熟と大局観
•greater confidence and independence - 自信や自立心を深める
•increased passion for their education - 学習意欲を高める
•increased practical life-skills - 実用的な生活技能
•experience of workplace environments - 職業経験

(出所:Are there any benefits in taking a gap year?:http://www.canberra.edu.au/gap-year-plus/benefits

 次に、国際教養大学が挙げている、ギャップイヤーを通して得られることは、

 この(ギャップイヤー)制度の目的は、様々な活動を通して、本学に入学する前に社会的な見聞を広げ、自己発見を促し、社会人としての基礎能力発達の機会を得るなど、入学前に貴重な社会体験を行うことで、入学後の本人の学習意欲や職業選択能力を高めることにあります。

(出所:9月入学とギャップイヤー制度:http://www.aiu.ac.jp/japanese/admission/admission0303.html

よく似ていると思い...ませんか?ざっくりと、ですが。

•「大局観:社会的見聞」
•「自信や自立心:自己発見」
•「学習意欲を高める:学習意欲を高める」
•「実用的な生活技能:社会人としての基礎能力発達」
•「職業経験:社会経験」

 両大学が認めているこれらのギャップイヤーの効果は、どれも大雑把で曖昧な表現ばかりで、本当にこんな効果があるのかどうかアヤシイのは仕方ないと思います。技術や資格と違って、数値や証明書のような形として表されるわけではないのは確かですから。ですが、

 もし、ギャップイヤーを経験したことによってこれら効果を得た若者が日本に増えていくとしたらどうでしょうか。いろいろな視点から物事を考えることができ、より自分自身に対する自信にあふれ、新しい知識を吸収することに前向きな一定の常識を兼ね備えた、ある程度の社会経験をもった若者が増えるとしたら。

 「ギャップイヤーを応援する、応援しない」はもちろん個人の自由ですが、今までの方法でうまくいっていない日本の現状だからこそ、ギャップイヤーなどの「多様性」を認めることで現状を変えることができるかもしれません。もちろんできないかもしれません。ただ、何もせず、決して良い状態とはいえない現状をそのままにしておく日本でよいのでしょうか。今のままではいけないという気持ちがあれば、一歩踏み出して行動に移す、一歩譲って価値観の違いを認めるには十分だと思います。「みんなちがってみんないい」そんな社会の一員にボクはなりたいと思っています。

プロフィール:
国際教養大学 渡部北斗
JGAP寄稿:「『ギャップイヤー体験』インタビュー~国際教養大学 渡部北斗さんに聞く」-http://japangap.jp/info/2011/06/post-8.html
ブログ:http://hokutowatanabe.blogspot.jp/2012/12/blog-post.html 
ツイッター:@hokutow

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