代表ブログフロンティア・フォーラム

日本をよくする提言から多様性を高める主張、ギャップイヤー文化構築提案まで、
多種才々なイノベーター達のエッセイ集

「ギャップイヤーから、世界を変えてく"クリエイティブ・テンション"の創出へ」山本さん写真DSC_0046.JPG

山本未生
一般社団法人 WIT代表理事


ギャップイヤーは"一回"とは限らない
 ギャップイヤーという言葉が広まるにつれて、それって何だろう、何を意味するのだろう、と考えていました。

あ、それって、「クリエイティブ・テンション」を生み出すための時間のことかしら。


 「クリエイティブ・テンション」というのは、学習する組織で有名なマサチューセッツ工科大学(MIT)の上級講師であるピーター・M・センゲ博士が提唱している考え方です。人って、ビジョンと現実の間にギャップがあるからこそ、その引っ張り合いが創造的な活動をするエネルギー源になっているんだよね、というものです。ビジョンや現実どちらか一方だけではいけなくて、その間のテンション(緊張)が重要なんだと。

 同質の価値観の中にずっといたり、身の丈サイズの業務をこなしていたり、何が現実的かということに囚われすぎてしまうと、いつのまにかゴムが弛んだような状態になります。また、ゴールが高すぎたり、現実とどう繋がっているのかわからないような目標だと、ゴムが引っ張られすぎて伸びきってしまいます。その中間くらいだと、やる気が出る、試行錯誤する余地が生まれる、Comfort zone(居心地の良い空間)の外に出る必要がある、成長機会がある等々、創造的エネルギーを発揮しやすくなる、ということだと私は理解しています(注1)

 ギャップイヤーとは、何も高校生と大学生の間とか、大学卒業前とか、特定の時期に比較的長い時間をとって非日常を経験する、ことだけではないと思います。

 自分のいる位置と、目指したいことと、見えていなかった社会や物事をもう一歩深く広く捉えてみるというプロセスを通じて、次の一歩を踏み出すということかな、と思います。だから、本来は、人生の至るところにそういうプロセスを自分でつくっちゃえたり、その時その時に出くわした環境を積極的にプロセスとして活用できちゃえば、いいわけです。そうすると、ギャップイヤーならぬ、日常の1コマ1コマに良質のギャップが沢山眠っている可能性があります。(ギャップ・モーメント)

 そう考えてみて、これまでの来し方を振り返ってみると、2つきつかった「クリエイティブ・テンション」(ギャップ・モーメント)がありました。


両親が亡くなって休学した2年間
 1つは大学3年の時、両親が亡くなった際の経験です。3人の妹弟を養うため、2年間大学を休学して働きました。高い時給でまとまった時間働けるところを探して、派遣会社に登録したのですが、その派遣先が消費者金融での取り立ての仕事でした。

 勉学を続けたいが働かなくてはいけないという辛さに加えて、仕事の内容に疑問を感じずにいられなかったのです。毎日債務者の方々と話をしながら、金融は本来社会の潤滑油であるべきはずが、その役割を全うできてない現場に直面しました。この経験を通じて、自分が社会に商品やサービスを提供するのであれば、問題の根本を解決しようとする仕事か、なるべくネガティブな影響を減らす努力ができる仕事をしたいという思いを強くしました。

 同級生が卒業していくのを尻目に、日々焦り、とにかく節約して稼ぐ、ということに明け暮れたのですが、同時にそれだけではなくて、債務者の置かれている大変困難な状況を限られた範囲ですが知ることができました。また怒りや悲しみといった自分の中の負のエネルギーをどうコントロールしたらよいのかも経験できたように思います。生き抜くために数え切れないほど沢山の方にお世話になり、その後復学し、大学も卒業できました。これらのこと全てが、今生きる糧になっています。

 2つ目は震災後に起業してからのこと。東北の社会起業家を支援し、東北から生まれるソーシャル・イノベーション(社会変革)を加速させたくて、2011年に仲間と一般社団法人WiA(現在の団体名はWIT。World in Tohokuの略)を立ち上げました。ところが、2013年春に当時の代表理事加藤が心臓病で生死をさまよい、彼から代表理事を引き継ぐ決断をしました。(当時私は、MIT Sloanのビジネススクールとの掛け持ちで、パートタイムの理事をしていました。)

 以来、自分の目指すビジョンと、自分の能力との差に愕然とし、学び続ける日々です。とにかくこれがやりたいことなのだから、続けさせていただいていること自体が大変ありがたいですし、きつくても楽しく、「クリエイティブ・テンション」が良い意味で広がり続けています。いつ、きつさが糧になるのか、わかりません。しかし、乗り越える瞬間がいつか来ると思いますし、東北から生まれた社会変革が世界の他の地域へも役立っていく日を目指して歩んでおります。

 少し話は逸れて見えますが、WITで私たちが信じている社会変革へのプロセスというのがあります。それが、Wの形を描くこちらの図で、「クリエイティブ・テンション」の考えも根底に流れており、実はギャップイヤーに通ずるものがあるのではないかと、感じました。
山本さん図表.jpg


『そこで起きているのは、
・私たち自身や周囲に内包されている多様性(Diversity)に耳を傾けることで、自己と相手の新しい可能性が見いだされる(Appreciation)。
・垣根の向こうの世界と、こちらの世界が交じり合い、新しいなにかが生まれ(Involvement)、信頼(Trust)が育っていく。
・さらに新しい一歩が踏み出され(Scaling)、これまで見たことのない世界に触れられる(Social Change)。
世界をよくしていく、というのは、このプロセスの繰り返しなのだと思います。』(WITのインパクトレポートから抜粋)

 さあ、皆さんの「クリエイティブ・テンション」はどこにありますか?聞いてみたいです!
良質なギャップイヤー、ギャップ・モーメントが、次々に人や社会をより素敵なものへ育てていく原動力になっていきますように!

注1:参考文献 The Fifth Discipline: The Art and Practice of the Learning
Organization" (revised edition) by Peter Senge. 2006
※私がMITで学ばせていただいた経験に基づく自分なりの解釈で書いているので、正確にピーターの言説を尋ねたい場合には、The Fifth Discipline(和訳も出ています)等をぜひ読んでみてください。


プロフィール:
山本未生(Mio Yamamoto)
一般社団法人 WIT代表理事
1979年生まれ。東京大学卒業後、企業に就職後、MITスローン・スクール・オブ・マネジメント卒業(MBA)。2005年よりSVP東京のパートナーとして7年間、革新的な社会起業家を「汗と時間とお金の投資」で支援。
2011年より、東日本大震災を機に、東北で活動する9団体の社会起業家へ、ハンズオン支援、ファンディングコーディネーション、インパクトアセスメント等を通じて、社会起業家が持続的効果的に社会的インパクトを創出・拡大していくための支援を行っている。
WITのウェブサイト:http://worldinasia.org/
WITのフェースブックページ:https://www.facebook.com/WorldInAsia
山本未生FB:https://www.facebook.com/mio.yamamoto.906

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