代表ブログフロンティア・フォーラム

日本をよくする提言から多様性を高める主張、ギャップイヤー文化構築提案まで、
多種才々なイノベーター達のエッセイ集

「銀行辞めて、インドで現地採用として働く理由」田島さん写真 rofile Picture.JPG

田島 大基
(インド地場大手会計事務所勤務)

忘れられない光景
 母の号泣と父と深夜まで語り合う、その日は今でもドラマのように思い出されます。
銀行を辞めてインドで働きたいと両親に言ったその日です。


大卒後は銀行に就職したが、やりたいことは何・・・
 「ビジネスを通じた国際協力」に関心があった私は、途上国のプロジェクトファイナンス案件に携わりたいと大学卒業後、都市銀行に就職しました。就職人気ランキングでも常に上位の大企業、安定と高給が保証され、両親や親戚一同、喜んでくれました。

 国内の支社で勤務して2年ほど経った頃、自分のやりたかったことは「ビジネスを通じた国際協力」であるとの想いが押さえられなくなってきました。途上国の支店への異動チャンスに恵まれるのかどうか。明日死ぬかもしれない自分の人生でやりたいことを先延ばししていいものかどうか・・・。


転機となった一本の電話
 そんな時、大学時代の開発経済学のゼミの先輩(※1)から一本の電話がありました。インドで働いてみないか。名も知らぬインドの会社、一旦は断りました。ただ断るという選択肢が自分の本心からなのか、或いは世間体や親の目、自分への自信の無さからなのか分かりませんでした。悶々と思い悩んで1カ月が経つ頃、ふとインドに行くことが心落ちした瞬間がありました。温かい初春の昼下がりでした。

 直属の上司に退職の旨を報告したとき足が震えました。レールを外れるリスクのある決断、将来は食っていけるのか、不安と恐怖が体を貫きました。9割以上の周りの人々は反対し、その反対を振り切ってインドに行くフライトに飛び込んだとき、退路は断たれたなと痛感しました。


現在の仕事~150人の社員がいる中、日本人は1人~
 現在、私はインド地場大手会計事務所に現地採用として働いています。日系企業であるクライアントと社内のインド人スタッフを繋ぎ全体を管理する「ジャパンデスク」という仕事です。日系企業の会社設立、M&A、市場調査、設立後の会計税務、監査などと業務内容は多岐に渡ります。チェンナイとバンガロールのインド南部2拠点を担当し合わせて150名を超える社員のうち日本人は自分1人だけです。

 仕事は苦労の連続です。聞き取りにくいインド訛りの英語、複雑かつ改正の多いインド会計税務法務、日本とインドの商習慣の狭間でインド人上司と言い合いになることもしばしば。社会人経験も浅く、学生に毛が生えただけだと言われたこともあります。

 駐在員と違い現地採用(※2)なので海外手当や将来の保証はありません。専属のドライバーはもちろんいなく、通勤はオートリキシャを利用。チェンナイとバンガロールは飛行機ではなく、6時間かけて鉄道あるいはバスで行き来します。

 チェンナイの自宅はゴキブリとヤモリで賑やかな上、断水してペットボトルの水で過ごした日々も。食中毒で緊急入院したこともあります。


やりがいを感じる瞬間~ビジネスを通じた国際協力
 クライアントである日系製造業者の工場の竣工式に参加させて頂いたことがあります。パリっとした作業着に身を包んだインド人従業員はどこか誇らしげでした。日系企業がインドに進出し現地での雇用を創出する。自分のやりたかった「ビジネスを通じた国際協力」、まさに思い描いていたその光景は感動的でした。


インドの日常に比べれば、たいした"リスク"ではない
 オートリキシャで通勤していると、信号待ちの時間で物乞いの子どもたちが自分の腕を毎日のようにつかんできます。将来食っていけるのかどうか、銀行を辞めるときに感じていた「リスク」なんて、この国で日々起こっている現実に比べればたかが知れている、そう気付かされている自分がいました。


最後に~周囲の反対にあっても
 昨年、インド行きに大反対だった両親がインドに観光に来てくれました。息子がインドにいなかったら来なかった、来られて良かったと話す両親に、私は胸が熱くなりました。 反対にあっても自分がやりたいことは貫く、反対してくれた方々への感謝を生き様で示していく。忘れられない光景を胸にインドでの日々は続いています。


※1 その先輩(石崎弘典さん)は東洋経済オンラインにて現地採用に関する連載を行っています。是非ご覧ください。
http://toyokeizai.net/category/h-ishizaki

※2 現地採用をテーマにリクルートとイベントを共催しJGAPの方にも告知協力いただきました。イベントスタッフの鈴木佑豪さんがJGAP寄稿者短信にイベントレポートを投稿しています。こちらも是非ご覧ください。
http://japangap.jp/essay/2014/01/post-66.html


プロフィール:
田島大基
 東京大学経済学部卒。大学時代はモンゴル孤児支援NGOに参画、開発経済学のゼミを専攻。大学卒業後、三菱東京UFJ銀行に入行し国内の支社にて法人営業に従事。退職後、インド地場大手会計事務所Corporate Catalyst Indiaに現地採用として勤務し日系企業のインド進出、事業拡大に会計税務面から取り組んでいる。

Twitter(@tajima_daiki):https://twitter.com/tajima_daiki
Facebook:https://www.facebook.com/daiki.tajima.921?fref=ts

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