矢野文宏
(日英のインハウス通翻訳@マレーシア)
私は現在、在マレーシアの日・マ合弁企業にて、フルタイムの通訳翻訳として仕事をしています。業界歴は4年目の駆け出しですが、通訳翻訳という仕事が自分に合っているなぁと本当に感じます。 では大学時代から通訳翻訳を目指して勉強していたかというとそうではなく、最初は教員になることを目指しており、通訳翻訳をする前は中高一貫の学校で英語教師をしていました。
生徒から信頼されることもあればゴキブリのように嫌われることもあり、感謝されることもあれば恨まれる事もあり、部活や様々な校務をこなしながら、日々何とか全力で仕事をしました。
ただ、例えば学力に関して言うと、教員がどんなに頑張っても生徒にやる気がなければ学力は伸びません。(すべての生徒のやる気を引き出すのが教師の仕事なら、伸びない責任は教員にあるかもしれませんが)教員という仕事の様々な場面で「自分の手の届く範囲の責任」と「自分の手の届かない範囲の責任」を感じ、私はこの仕事を30年継続するのは正直しんどいなぁと感じました。
ではどうするか?と考えて選んだのが英語を生かした通訳・翻訳でした。 しかし通訳学校に通いながらフルタイムの仕事を探しましたが、リーマンショック後で仕事がありませんでした。やっと日本でパートなどの通訳や翻訳の仕事を見つけましたが、フルタイムで仕事をしてもっと実務経験を積みたいと思うようになりました。
見境なく東京から地方、沖縄まで履歴書を出しましたが全て落ちました。そこで、海外で仕事をする事を考え、Googleで「インド 翻訳 募集」などのキーワードで求人を探して応募しました。 内定が決まったのはインドのIT系企業でした。実は日本の一部上場企業やフォーチュン500に載る会社と取引する、エンジニアを4000人以上抱える大企業だ、ということは入ってから知りました。
仕事は翻訳メインで、IT系翻訳の実務経験と、少しの通訳経験を2年積むことができました。日本に戻って、派遣会社から日本でのIT系の翻訳の仕事は紹介されるようになりました。しかし、自分としては翻訳ではなく通訳を仕事にしたいと思っていたので、再度海外に出ることにしました。 シンガポール・マレーシアで就職活動をして、3社から内定をいただき、一番通訳の割合が多そうな会社に就職しました。
1年以上経った現在では、社内会議や現場レベルの指示出しなどはほぼ同時通訳で対応できるようになりました。 ただし、まだまだ国際会議などで仕事をするトップレベルと比べると足元にも及ばないレベルなので、これからも更に研鑽が必要になります。その場所は海外かもしれませんし、日本かもしれません。今はまだ分かりませんが、通訳をメインに仕事にしていきたいと思っています。
今の仕事をしていてプレッシャーがかかることは日常ですが、苦しいと感じることはあまりありません。もっと分かりやすくいうと、学校勤務時代はサザエさん症候群(日曜の6時30分頃になるとまた一週間はじまるとブルーになる日本の病)によくなりましたが、今はありません。もちろんサザエさんをマレーシアでは放送していないからではなく、前向きに仕事に向き合えるようになったからです。 理由としては、この仕事では評価が非常に明快だからです。
①通訳や翻訳が間違っていれば、どこが悪いのかクリアに結果が出る
技術職である以上あってはいけないことですが、もし誤訳があれば結果的に周りの人を混乱させ、迷惑をかけることになります。最悪の場合は会社に対して損失を発生させかねません。もし誤訳をすれば謝罪して訂正して、同じようなミスを繰り返さないようにする必要があります。または通訳が分かりにくいのであれば、どうすれば聞き手により伝わる訳出になるかを考えたり勉強をしたりして研鑽を積めば、ミスは減り、クオリティは上がります。原因が常に自分にある事が多いので、責任の所在がクリアです。
②自分の訳出に対する責任は、内容の履行を含まない
上司から部下への指示を通訳したり、メールを翻訳したりする場合には、訳出をした瞬間にその仕事は終了です。しかし教員の場合「~のプリントを~までにもってくる」という指示を出した場合、全員から実際に集めるまでが仕事になります。
③他の人が嫌なことが、自分は他の人ほど苦に感じない
通訳学校に2年通った時代に、辞書をAからZまで読んで知らない単語をすべて暗記するという勉強をしました。これをしていた当時は、昔からの友人と飲みに行った際に、
友「学校辞めて何してるの?」
私「主に家で辞書をAからZまで読んで、暗記してる」
友「・・・お前、大丈夫か?」 といった会話をしました。
これが正しい勉強方法かの議論は別の機会にしたいと思いますが、この例が示すように、普通の人からすると発狂しかねない勉強をすることが他の人ほど苦ではありません。自分が耐えられるタイプのストレスを抱えながら仕事をするほうが、そうでないよりも自分も周りの人も幸せだと思います。
海外就職をすることは全てを解決する魔法ではありません。しかし、その効果や意味、副作用も理解した上で自分のキャリアを構築するために使用することができれば、人生を豊かにしてくれる大きなきっかけになると思います。 もしマレーシアの生活や南インドの生活に興味があれば、電子書籍をKDPで発行していたり、ブログを書いています。よろしければ参考にしてみてください。
プロフィール:
矢野文宏
日英のインハウス通翻訳@マレーシア
ブログ:http://yanonanone.blog.jp/
Twitter: https://twitter.com/yanonanone