代表ブログフロンティア・フォーラム

日本をよくする提言から多様性を高める主張、ギャップイヤー文化構築提案まで、
多種才々なイノベーター達のエッセイ集

「子連れ海外駐在員シリーズ②~新興国で仕事にも家庭にも全力投球という働き方」後藤さん2.jpg


後藤 愛
国際交流基金ジャカルタ日本文化センター アシスタント・ディレクター

第2回:リスクとは、私たちが成長するチャンスのこと~自分を成長させるための基本姿勢とは?


100点と60点、どっちがいい?
「テストで100点取るのと、60点取るの、どっちがいい?」

―――こう聞かれたら、あなたはどう答えますか?

もちろん、100点がいいに決まっている、と思いますか?それとも、60点くらい取れてれば十分なんじゃないのと思いますか?

もう少し問題の意図を考えてみましょう。
何点を取れるのかは、「テストの難しさによる」でしょう。

では、上の質問を、言い換えてみます。

「あなたは簡単なテストで100点を取るのと、難しいテストで60点を取るのであれば、どちらがいいですか?」

一瞬考えてしまいますね。どちらの方がいいのかな、と。
これでも、多くの人は、「100点を取りたい。100点を取りたいから、簡単なテストがいい」と思うのではないでしょうか?

実は、これこそが、多くの日本人が、誤ったゴール設定をしてしまっている大きな原因ではないかと、私は考えています。

つまり、「100点を取りたいから、簡単な問題ばかりに挑戦しよう」と無意識のうちに思ってしまっているのです。

そして、その結果、難しい問題、すなわち、今の自分には手におえない問題には、手を出さなくなります。

そうした選択を続けてゆくと、新たな問題に挑戦して60点を取りながら自分を成長させてゆく機会を、得ない人生になってしまうのです。

それは、短期的には、失敗がない、間違いがない、安心な人生でしょう。

けれども、長期的には大きな成長ができません。何よりもったいないのは、本人が潜在的にもっている能力を思う存分発揮させることもできないのです。


発想の転換:「やったことないから、できません」から、「できないから、やってみる」へ。
実際、私も、この両者の違いを目の当たりにする経験をしました。

社会人になって2年目の25歳のころ、自分が手掛けていたワークショップの企画で、先輩と2人で東京の、ある民間財団の役員の方に、彼女のこれまでの経験を活かして、モデレーターになっていただきたい、とお願いをしにうかがったことがありました。東京のある寒い冬の午後のことです。

私たちが依頼しようとしていたこの女性は、ワークショップの日に先約があり、残念ながら、その役目を引き受けられないことが、打合せの席でわかってきました。

すると、その女性は、一緒にいた部下の当時30代後半くらいの男性に、その場で、こう振りました。
「そうねえ、私、行けないけど、おもしろそうな企画だし、あなたやったらどう?」と。

その男性は、一瞬驚き、顔の前で手を振りながら、こう答えました。
「いやー、自分はとてもできませんよー。だって、そんなお役目、やったことないですし。できません、できません!!」とひたすら固辞しています。謙遜半分、本当にできないと思っている半分といった感じでした。

依頼している私たちから、ひとこと、「ぜひお願いします」と言うべきかな・・・と迷った次の瞬間。
役員の女性が、「あなた、何言ってるのよ!できないから、やるのよ!決まってるでしょ!!」と一喝。

今の自分には、まだできない。そう思っていることにこそ、挑戦してゆくべきだと、その方はおっしゃりたかったのです。ともすると守りに入りがちな私には、衝撃の一言でした。

この方の迫力に圧倒されて、その場の流れでこの男性は断りにくいと思われたのか、とりあえず、このお話を受けてくださいました。

後日、このワークショップでは、この男性にモデレーターを務めていただきました。緊張しながらも、しっかり下調べと準備をしてくださったモデレーターぶりで、参加者満足度の高いワークショップを実現させることができました。

初めての試みにも、「できないからこそ、やる」の精神で挑戦した彼の一念発起は素晴らしかったですし、そして、そもそも「やればできる」と叱咤激励した役員の女性の読み通りだったともいえます。

自分が、そのような選択肢を取るだけでなく、部下にも、リスクを成長のためのチャンスととらえるような考え方をこうして示していた彼女は、今でも私のなかで、密かな憧れのキャリア女性です。

「固定されたマインドセット」と「成長するマインドセット」
冒頭の、「簡単な問題で100点」もしくは「難しい問題で60点」を比べることについて、スタンフォード大学の心理学者、キャロル・ドウェックが「Mindset: The New Psychology of Success」という本の中で述べています。

「固定されたマインドセット」すなわち、自分の能力はすでに固定されていると考える人たちは、前者の100点を目指す行動を取ります。

一方で、「成長するマインドセット」の持ち主、つまり自分はまだまだこれから変われる、成長できる、と捉えている人たちは、自分の成長を信じられるので、より難しい課題にチャレンジでき、その結果、実際に成長できるのです。

つまり、今目の前にある問題で、小さく100点を取ることよりも、もっと大きな流れの中で、今、自分が、100点を取れない、60点程度に収まるような、成長できる環境にいるのかどうか。それの方が、ずっと大事だということです。

上記の例で考えてみると、ワークショップのモデレーターを最初は固辞していた男性は、「固定されたマインドセット」で発言していたのです。100点を取れないから、やりたくない、と。

でも、女性に「やりなさいよ!」と叱咤され、半ば強制的に、「成長するマインドセット」に切り替わったのだと思います。「60点でもいいから、やりなさいよ!」と。

こういうことを言ってくれる上司(や親や指導教員)がいるというのは、本当にありがたいですね。
短期的な小さな失敗は許容し、長期的に本人が成長することを全力で奨励してくれているからです。

(自分が部下を持つ立場になってからは、なるべくそのような意識で接するよう心掛けています。どのくらいの失敗までなら許容するのか、その加減がまた難しいのですが・・・。また、私の場合、夫が枠にとらわれない自由な発想の持ち主なので、小さくまとまりがちな私の思考を、より大きな視点に立った助言をくれることに感謝しています。職場だけでなく、家族や友人などとも、こういったお互いを高め合える関係を築けると、人生がさらに生産的で豊かになりますね。)


自己肯定感と親との関係
また、日本は、若者の自己肯定感が低いといわれています。内閣府の2014年版「子ども・若者白書」(注)によれば、他の調査対象国と比べて、日本の若者は「私は、自分自身に満足している」(そう思う7.5%、どちらかといえばそう思う38.3%、計45.8%)や、「自分には長所があると感じている」(そう思う15.2%、どちらかといえばそう思う53.7%、68.9%)といった、自分のことを肯定する、つまり「自分は自分。これでいい」と思えているかどうかを問う項目で、調査対象全7カ国の中で圧倒的に低い数字となっています。

なかでも、私が気になったのは、「自分の親から愛されている(大切にされている)と思う」という質問で、「そう思う」が低く35.2%、そして、「どちらかといえばそう思う」、が48.6%と多いことです。

子どもが、「親は私を大事に思ってくれている」と、はっきり自信を持って、答えることができないのです。
これは、親が子どもに対して、はっきり、「あなたのことを、私(たち)はとても大事に思っている(愛している)」ということを、言葉や行動で伝えてきれていないからではないでしょうか。

「子どもに愛情を伝える」ということは、言うは易し、行うは難しです。自分が母親になった今、息子にも、自己肯定感をもった子どもに育ってほしくて、夫とも一緒にいろいろ相談しながら、ときどきお手伝いなどのちょっとしたタスクを課してみたり、結果よりも頑張りをほめてみたり、いろいろと毎日、少し悩みながらも、楽しく試行錯誤しています。

さらに、この調査のなかにも「うまくいくかわからないことにも意欲的に取り組む」という不確実性への態度を問う質問もありました。日本は「そう思う(8.9%)」と「どちらかといえばそう思う(43.4%)」をあわせても52.2%で、他の国(フランス86.1%、アメリカ79.3%、韓国71.2%)と比べても明らかに低い結果となっています。

自己肯定感が低いことと合わせて、不確実性についても消極的な態度でいることが浮かび上がってきます。
自分に自信がないし、かつ、どのような結果になるかわからないものについて挑戦を躊躇する、という弱気で内気な態度です。これが現代の日本の若者の意識なのです、と断定されてしまうと、とても淋しいし、心の底から、がっかり残念な気持ちになってしまいますね。

ギャップイヤーに関心があるような読者の皆さんには、ぜひ、この調査を覆すような、能動的な態度を持っていただけるものと、期待しています。


自己肯定感を土台に、チャレンジの幅を広げよう!
私は、この「自己肯定感」と、先に述べた「失敗を恐れずにチャレンジする」(成長するマインドセット)の間には、非常に密接な関係があると考えています。

しっかり自分を肯定できる人は、この安心感を土台にして、大小さまざまなチャレンジをすることができる。
自分を肯定できないと、小さな失敗が、自分の存在を脅かす脅威に感じられ、そのため、失敗を恐れて、60点を取りに行けず、なかなかチャレンジを広げることもできないのです。

では、自己肯定感を持つにはどうしたらよいのか。
それには、小さな成功体験を積み重ねること。そしてそこから、徐々にチャレンジを広げてゆくことだと思います。
(さらにいえば、究極的には、「親との和解」をすることでしょう。すなわち、親との「絶対的な親vs依存する子ども」という関係をいったんリセットし、お互いに対等な一人の人間同士としての新たな関係を、できれば、20代~30代前半くらいまでの間に作っておきたいということです。)

偉そうに書いている私も、60点の価値や、自己肯定感の大切さに気が付いたのは、実は20代後半から30代になってから。

もっと早く、この法則に気づいていたら、人生のもっと早い段階から、恐れることなくリスクを取った選択をできたのではないかなとちょっと悔んだりしています。(笑)

(だからこそ、今高校生や大学生や若手社会人であるギャップイヤーの読者の皆さんには、この話を、ぜひお伝えしたいと思いました。)

インドネシアに来たのは、2012年の当時は、あまり意識してはいなかったのですが、あとから振り返ってみると、「60点(というか、確実にそれ以下・・・)」の環境に、自分の身を置く行為でした。そして、その結果、自分なりに成長を実感することができるようになりました。

皆さんも、もし、人生の岐路に立っていると感じていたり、いま、選択肢を選ばなければならなかったりしているのであれば、この「60点」の発想を頭の片隅においてみてはいかがでしょう。
きっと、これまでと少し違った世界が見えてくるはずです。

私のつたない経験談ですが、これからいろんな選択をしながら人生を歩んでゆく読者の皆さんに、多少なりとも参考になれば、大変嬉しいです。

今回(第2回)は、少し理屈っぽく、考え方(マインドセット)について、書いてみました。

次回(第3回)は、時間を少し巻き戻して、高校でのホームステイ、大学での留学、就職活動、就職までを書いてみたいと思います。ぜひご期待ください。

(写真説明)依頼をされて大学などで日本社会についての講義をすることも。ビナ・ヌサンタラ大学での講義のあとに学生たちと。この日のテーマは草食男子(!)でした。私の話を聞くことが、インドネシアの皆にとって、未知の世界、新たな世界への一歩を踏み出すきっかけになれば、と願っています。活気に満ち溢れたインドネシアの若い人たちとの触れ合いで、こちらが元気をたくさんわけてもらいます。前列中央が筆者。

(関連記事)2014年12月6日付
No.195「子連れ海外駐在員~新興国で仕事にも家庭にも全力投球という働き方(第1回)」

http://japangap.jp/essay/2014/12/post-90.html


↓ジャカルタでの子連れ駐在員ライフをフェイスブックでときどき発信しています。
ご興味のある方は、どうぞ友達申請をしてくださいね。
Facebook:Ai Goto https://www.facebook.com/ai.goto.188
Twitter:@aigoto

(注)日本と諸外国の若者意識を調査し、日本の若者の意識の特徴を分析し政策に生かすために行われた調査。調査対象は満13歳から満29歳までの男女で、対象国は日本、韓国、アメリカ、英国、ドイツ、フランス、スウェーデンの7カ国。2013年11-12月に実施。各国サンプル数1,000。ウェブ調査。
http://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/thinking/h25/pdf_index.html

プロフィール:
後藤愛 国際交流基金ジャカルタ日本文化センター アシスタント・ディレクター
一橋大学法学部卒。大学3年の1年間を米国ペンシルヴァニア大学にて交換留学生として過ごす(国際関係論専攻)。留学1週目に2001年9月の米国同時多発テロ事件が起こったことから異文化間の相互理解に携わることを志す。2003年大学卒業と同時に国際交流基金に就職。日米センター知的交流課にて、米国の大学やシンクタンクとの学術交流事業の助成金管理、セミナーなどのイベント企画・広報に携わった後、2007年~2008年フルブライト奨学生としてハーバード大学教育大学院留学(教育学修士、Ed.M)。帰国後、同基金日本研究・知的交流部欧州・中東・アフリカチームにて欧州、中東地域との知的交流事業に携わる。2010年長男出産。産休・育休を経て2011年職場復帰。日本で約10か月間ワーキングマザーとして働いたあと、2012年2月よりインドネシアのジャカルタに1歳9か月の長男を連れて子連れ海外駐在員。

記事一覧

フロンティア・フォーラムトップページへ戻る

アーカイブ