代表ブログフロンティア・フォーラム

日本をよくする提言から多様性を高める主張、ギャップイヤー文化構築提案まで、
多種才々なイノベーター達のエッセイ集

小川裕馬さん写真.jpeg「"新卒"という黄金を捨てた僕~自分なりの世界地図を作るために」


小川裕馬(22歳)
立命館アジア太平洋大学アジア太平洋マネジメント学部卒業 '12
※現在オーストラリア
 


新卒を失うことより怖いもの
 卒業証書を受け取った瞬間、僕は新卒という人生で一度限りの切符を失った。 この"黄金"の切符と引き換えに、オーストラリアへの片道切符を手に入れた僕は今、オーストラリアの大地で夢を追いかけている。

 日本の大学に通う学生にとって、新卒という称号を捨てることは自殺行為に等しい。毎年就職活動にあぶれた学生が、就職浪人という選択肢を行使してまで新卒に拘るのには、それなりの理由があるからだと思う。

 それにも関わらず、僕は新卒を捨てた。新卒を捨て、ギャップイヤーでオーストラリアへやってきたことの経緯を説明しようと思うと、話は昨年日本を襲った未曽有の大震災にまで遡ることになる。あの日、僕は新卒という称号を失う恐怖よりも巨大な恐怖の存在に気が付いた。それは、いつか自分も死んでしまうという、自分の命の有限性に対する恐怖だった。一瞬にして多くの人の命を飲み込んだ震災によって改めて感じた、いつ死ぬか分からないという恐怖。そして、いつか必ず自分も死ぬという紛れのない事実。根本的には、僕がギャップイヤーを決断し、今オーストラリアにいる理由はここにある。


何も持たない今だからこそ
就職すると、様々なモノが増えていく。昇進すれば新しい肩書ができ、結婚すれば養うべき家族ができる。子供が生まれて家族が増え、家を買おうと決めた時には支払うべきローンが発生する。これらはさながら分厚い鎧(よろい)のように身を重くしていく。
 進路に悩む4回生の頃、接客業をしていたこともあり、多くの社会人の方々に出会った。少し酔いが回った頃、出会った大人たちは僕の目を真っ直ぐに覗き込み、「若いうちは好きなことをやりなさい」と繰り返していた。

 小中高大と続いた学生生活が終わり、「学生」という肩書さえ失った。養うべき家庭もなければ、失うのが惜しいと思われる程の社会的地位もない。僕は今まさに、人生で一番身軽な瞬間を生きていると思う。
「若いうちは好きなことをやりなさい」という言葉の裏にある、「年を追うと好きなことができなくなるよ」というメッセージは、こういうことではないかと思う。

 なにも持たない今だからこそ、素手で自由に生きてみるのも悪くないのではないかと思う。


自分なりの世界地図を作りたい
 僕には小さな夢がある。それは、世界中の様々な国を訪れて、自分なりの世界地図を完成させていくことだ。敢えて「世界一周」と書かないのは、たかだか数年で世界を一周できるほど世界は狭くないと信じたい気持からである。将来、真っ白な世界地図を開いたとき、そこに僕が知っている全ての音・味・景色・匂い・手触りを感じたい。

 僕はオーストラリアを皮切りに、この夢を追い始めた。オーストラリアは世界有数のワーキングホリデー受入国であり、ここでは各地を転々としながら仕事を探すことができる。世界中を旅して回る資金が必要な僕にとって、オーストラリアの賃金水準が他国に比べて高いところも魅力的だった。

 今後はオーストラリア全土を旅しながら旅行の資金を貯め、少しずつ、僕なりの世界地図を描いていこうと思っている。


おわりに
 僕の旅はまだ始まったばかりである。小説を書こうと思えば、プロローグさえも完成していないだろう。旅をする身分として、明日の寝床さえ不確かな生活に不安を感じることもある。しかし、不思議と"新卒"を捨てたという恐れはなくなった。いつかこの旅に終わりがやって来たとき、僕の歩んだ道程が、閉塞感を感じている日本の学生たちの一縷(いちる)の希望になればと願っている。


おわりのおわりに
 大学卒業後、就職もせずに異国の地へ旅立つと決めた僕の意思を最大限に尊重し、嫌な顔ひとつせずに背中を押してくれた両親には心から感謝したい。

プロフィール
小川裕馬(22歳)
立命館アジア太平洋大学アジア太平洋マネジメント学部卒業 '12
シンガポールマネジメント大学交換留学 '09 - '10
現在はワーキングホリデー制度を利用しオーストラリアへ
twitter: @yumaog168
blog: http://www.yumaogawa.com/blog

※【JGAPからのお知らせ】当該「フロンティア・フォーラム」欄の寄稿者2名も登壇します!
追加募集中:5月31日(木)18:15開始 JGAP設立1周年記念「明日の高等教育の可能性を"親子"で考えるセミナー~新しい時代の大学・大学院の価値とは?!」(参加費:無料、定員:100名) http://japangap.jp/info/2012/05/531100.html

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