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日本をよくする提言から多様性を高める主張、ギャップイヤー文化構築提案まで、
多種才々なイノベーター達のエッセイ集

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「旅の途中」


秋田大学医学科2年 井口 明
※今月初旬アフリカを中心とする10ヶ月の「旅」から帰国


 「モロッコから西側を南下後、東側を北上し、1年間でアフリカを一周する」、そんな当初のプランからは随分と変更もあったが、日本を旅立ち約8ヶ月半、ようやく南アフリカ共和国のケープタウンに辿り着くことができた。「縦断」や「一周」等という言葉それ自体に拘(こだわ)りはなかったが、CAPETOWNの看板が見えた時は「随分遠くまで来たんだなあ」と感慨深い気持ちになった。

 「8ヶ月半、東アフリカ」――王道ルートも有名宿も国際バスすらもあり、アフリカ内ではダントツに旅しやすい地域である。想定していたよりも随分時間がかかってしまったのは、僕の歩みが遅かったせいか、アフリカが想像以上に広かったせいか、その理由は定かではないが、結果としてそれなりに時間をかけ、モロッコに始まる10カ国を見てきた。

 見所が少ない、と言われることも多いアフリカ諸国放浪中、"自分と向き合う"時間だけは十分すぎるほどあった。紆余曲折熟孝の結果、憧れの地のひとつである「西・中央アフリカ」は見送ることに決めた。「おれが見たかったアフリカって何なんだろう」、旅中幾度と無く自分に問いかけた。8ヶ月旅して思うのは、「アフリカ」なんていうのはただの"言葉"だ、という当たり前かつ何を今更といったことだ。

 モロッコの果てしなく広がる砂漠も、エジプトに聳(そび)え立つピラミッドも、エチオピアの山に囲まれた教会群も、ケニアのサバンナも、タンザニアの5895mの山頂も、ザンジバルの白いビーチと青い海も、マラウィの湖に浮かぶ島も、ザンビアのザンベジ川も、ナミビアの大都会も、南アのお洒落なカフェも、全て「アフリカ」だ。それはただの言葉で、大陸の名前で、それだけなのだ。

 「アフリカ」の響きに魅せられたなどと大口を叩き日本を飛び出してみたが、なんのことはない、そこには一つ一つの国があり、一つ一つの生活があるだけだった。それに気づいた時、「西・中央アフリカこそ真のアフリカで、そこに行くことなしにアフリカは語れない」なんていう最早狂気染みた謎のプライドは消えていった。実際、出国前から「満足したら日本に帰ろう」と、そう決めていた。たったの8ヶ月で大きなキッカケを掴むことができたことには自分自身でも驚いているくらいで、予定よりも早くアフリカを発つ、という選択も予想外に腑に落ちた。

 アフリカから多くを学んだ今回の旅、その中でも自分自身にとって大きな「気づき」を2つ書き出してみることにする。


① 医×世界
 旅中に色んな職の方にお会いした。どの人も自分のプロフェッションを持っていて、何もない自分にはそれがすごく羨ましく、何もプロフェッショナルのない自分のカッコワルさを感じることが多々あった。

 けれど、「医学部に入ってよかった」と、何度も何度も、そう強く思った。医者になりたいから入った学部であるから何を今更といった話であるわけだが、思えば1年次の自分にその覚悟・やる気はなかったし、むしろ「もしかしたら医者じゃなかったんじゃないか、おれがやりたいことは」なんて後悔することも多かった。

 医師としての道、これが自分の生きる道で、自分の選択は間違いじゃなかった。そう心から思えたし、もしこれが勝手な思い込みだとしても、これほど素敵な勘違いはないだろう。休学を考え始めた頃から、結局はこの結論に落ち着くことを望んでいたのかもしれないが、この気持ちは本物だ。1年次の講義で半ば禿げかけた教授が「大事なのはプロフェッショナリズムだ!」と声を大に連呼していた。この気持ちの芽生えはプロフェッショナリズムとやらのそれなのかもしれない。

 海外で働く覚悟ができたのも貴重な経験だった。単純に選択肢が広がった。この8ヶ月ですら、言ってるコトと行ってるトコが違うくらいだ。医系授業が始まろうとしている残り5年の学生生活、それを経れば考え方が変わる可能性は多いにあるし、むしろ断言できることなど何もない。もしかすると国内僻地(へきち)での地域医療へ進むかもしれないし、あるいは研究職に行く可能性だってゼロじゃない。ただ、『医師』としてどんな道を選んだとしても、『世界』ってのは自分に欠かせない、一番ワクワクする"生き方の核"だと気づいた。

 国境無き医師団のミッションに時折参加するのか、海外永住を決めるのか、はたまた別の形での関わりになるのか...。「神のみぞ知る」、ではあるが、何らかの形で国内を含めた世界と関わって生く。『医×世界』、そんな一本の軸が自分にできた。答えは最初から自分の中にあった。この気づきは得がたい。もう自分の外に何かを探す必要はない。枯れないモチベーションを自分の中に見つけたのだから。僕は今、医者になりたい。


② 放浪終了
 目的ある旅が目的のないそれに比べて高尚であるとは思わない。目的を探すという目的や、目的がないこと自体が目的の旅もあるだろう。旅などというのも所詮ただの言葉で、自分が旅といえばそれは旅なのだ。今回の僕の旅の目的の1つは「さすらい」だった。当ても無く、嗅覚を頼りに、風に運ばれてフラフラしたい、そんな生活を長期間送りたいと思っていた。

 けれど、自分にはもう当てのないさすらいは必要ない。もうそれは十分に味わった、もっと深く、もっとオモシロく、そんな自分の旅を作るに放浪は物足りない気がしている。西・中央アフリカ、ずっと楽しみにしていたその地を時間もかけず放浪で終えるのは勿体ないと思ったし、何より、自分のプロフェッションを生かして旅をする方が自分の性に合いそうだ。

 結局休学前に言われた「医者として技術を身につけてから世界に出ればいいじゃないか」という言葉が、自分自身悩み続けた挙句結局そこに辿り着いたのだから、一番正しかったのかもしれない。が、その「医者」になる前に今回のような旅ができて、紡いだ学びは本当に大きかった。

 願わくば、もう1年休学したいと考えている。今度は一通り知識としての医学勉強が終わった4年次後に、だ。そこが学生時代の次の「区切れ目」なので、中間テストのようなイメージで、その時の自分にできることとできないこと、足りないものと必要ないものを見極めに行きたい。その時に残りのアフリカ諸国を医療に携わりながら巡れたらな、と思うが、まあこれも神のみぞ知るだ。

 アフリカの旅は終わった。思い返せば本当に色々なことがあった。良い思い出、悪い思い出、感動と後悔、出会いと別れ、すべてひっくるめて僕の旅だ。何度も怒り、笑い、泣き、そしてまた笑い、そんな一回きりの連続。旅の終わりはどんな気持ちになるのかと、旅の始まりから時折考えることがあったが、不思議と想像していたような後悔や旅を続けたい気持ちはなく驚いた。今も、むしろ日本でこれから始まる日々が楽しみで仕方ない。日本で、大学生のうちに、やりたいことがたくさんある。帰ることは終わることじゃなく、次へのスタートに立つことなのだろう。人生を旅に例えるのは少しこそばゆい感じがするが、僕はまだ「旅の途中」なのだ。


エッセイ集 フロンティア・フォーラム寄稿 No.58:「医学生が、なぜか休学してアフリカ旅してます」(秋田大学医学部医学科=2年次休学中、現在モロッコ)-http://japangap.jp/essay/2012/04/post-23.html

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