代表ブログフロンティア・フォーラム

日本をよくする提言から多様性を高める主張、ギャップイヤー文化構築提案まで、
多種才々なイノベーター達のエッセイ集

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「ソーシャル・イノベーションの街で社会起業を学んだ1ヵ月 ~米国シアトルのNPO法人iLEAPによるSIISプログラム~」

堀米 顕久
(大分大学医学部医学科・2012年度 BADO! 世界を旅するチェンジメーカー奨学生)


 JGAPをご覧の皆さま、こんにちは。

 昨年8月に「フロンティア・フォーラム」欄にエッセイを寄稿させていただきました、世界を旅するチェンジメーカー奨学生(注1)の堀米顕久と申します。

 病気や障がいを抱える子どもたちの居場所づくりを模索して、国内・国外の医療施設・福祉施設・野外体験施設等への視察・ボランティアの旅をしながら情報発信を続けていますが、今回は2012年8月に参加していた、アメリカ合衆国シアトルにあるNPO法人iLEAP(アイリープ)が提供するプログラム、SIIS(ソーシャル・イノベーション・イン・シアトル;以下「SIISプログラム」)についてご紹介させていただきます。

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NPO法人iLEAPとは
 NPO法人iLEAPは、世界中のソーシャル・リーダーやグローバル市民に対して、リーダーシップやコーチング等のトレーニング・プログラムを提供しているアメリカの非営利団体です。参加者たちはiLEAPのプログラムを通じて、新たなインスパイアを受けたり、参加者同士で相互に高め合ったり、あるいは自分自身のビジョンや思考をリニューアルしたりしながら、より良い世の中をつくるための一翼を担っていきます。

 今回参加させていただいたSIISプログラムは、学生・若手社会人といった今後ソーシャル・リーダーとなっていく世代を対象とした入門的なプログラムです。参加者は、iLEAPのネットワークを活かしたシアトルの社会的企業・組織への視察やインターンシップ、ソーシャルイノベーション等に関するレクチャーやディスカッション、個別のコーチング等を通じて、社会起業やソーシャルビジネス、ソーシャルイノベーション等について実践的に学ぶことができます。

 「ソーシャルイノベーション」とは、「何らかの社会問題を解決するにあたり、社会や組織のあり方を変えるような新しい考え方や方法」のことを指します。そう言うと、今回の私の旅のテーマとは直接関係ないようにも思えますが、私としては、iLEAPがシアトルの福祉関係の組織ともネットワークを持っていたこと、また医療・福祉に限らず、様々な社会的組織の実際(ガバナンスやファイナンス等)を知ることは、ずっと先に私自身が病気の子どもを対象とした活動を行なう上で参考になるだろうと考えての本プログラムへの参加でした。加えて、国内から勝手の知らない海外へ活動(視察・ボランティア)の場を移すにあたって、本プログラムがスタートアップとして最適だと思えたことも、参加を決めた理由の一つでした。

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SIISプログラムを通じて学べること
 SIISプログラム中の視察では、シアトル中のあらゆる分野でソーシャルビジネス・ソーシャルイノベーションを実践している組織を訪問します。例えば、フェアトレードのチョコレートを専門に取り扱っているチョコレートメーカーTheo Chocolateや(https://www.theochocolate.com/)、社会的使命を追求したエコでサステイナブルな銀行One PacificCoast Bank(http://www.onepacificcoastbank.com/)、またホームレスの職業訓練を行なっているレストランFareStartや(http://www.farestart.org/)、社会的組織・事業に資金融通している財団Jolkona Foundation等々です(http://www.jolkona.org/)。

 視察を通じてそれらの組織の先駆的かつ社会的な取組みを知るとともに、各組織のマネージャーや従業員から自分たちの仕事への想いを聞かせていただいたり、そのノウハウについて学ばせていただくことができます。

 インターンシップでは、上記のようなシアトルの社会的組織で数週間働く経験を通じて、ソーシャルビジネス・ソーシャルイノベーションの現場の実際をより深く学びます。また、従業員や顧客等のステークホルダーたちとより近い距離でコミュニケーションを取る中で、その組織の社会的な価値を改めて実感する機会も多々あります。

 レクチャーでは、iLEAPのスタッフやゲストスピーカーから、「フェアトレード」や「ホームレス」といった個別のテーマから、「ソーシャルイノベーションとは?」のような大きなテーマまで講義を受けるとともに、参加者同士でディスカッションを行なうことで、それぞれの理解を深めていきます。

 また、iLEAPのスタッフの方から個別にコーチングを受けることもできるので、日本で考えてきたことやシアトルで感じたこと、また帰国後に取り組みたいこと等について相談しながら、それぞれの胸の中で深く内省し、棚卸しする機会もあります。SIISプログラムでは視察やディスカッションもたくさん行ないますが、それ以上にこの振り返りや参加者自身への問いかけ、内省の時間がとても大切にされています。

「大切なのは、君が今「何をしているか」(What you do)じゃないんだ。本当に考えるべきなのは、君は何者なのか(Who you are)なんだ。そして君がWho you areなのならば、じゃあ君は人生において何をしたいと思うんだい?」

 例えばこれは、SIISプログラムの初日にiLEAP代表のBrittから問いかけられた質問でした。参加者たちは、シアトルの社会的組織で生き生きと働く人たちの現場を訪れて刺激を受け、意識の高い参加者同士でディスカッションを繰り返しながら、同時に自分自身と向き合い、自らの生き方を改めて考えていきます。

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SIISプログラムを通じて出会った素敵な人たちのこと
 シアトルでソーシャルビジネス・ソーシャルイノベーションを実践している人たちがどんな人なのか、もう少しイメージが湧くように、SIISプログラムを通じて出会ってきた人たちの言葉をいくつか紹介したいと思います。

「やっぱりやるからには、人がやってないことをやりたいよね」
「誰にも何をやれとか言われない。全部自分の責任で決める。それってすごくダイナミックだし、エキサイティングだよ」
(vegan専門のオーガニックレストラン、Chaco Canyon Organic Caféの創業者)

 いわゆるベジタリアンよりさらに制限した食材しか取らないvegan(完全菜食主義者)の人たちは、シアトルにそれほど大勢いるわけではありません。でもそこで、彼らが安心して楽しめるvegan専門のオーガニックレストランを展開して、vegan以外にもヘルシー志向の消費者の支持も受けて成功したChaco Canyon Organic Caféの創業者は、自分のエコでサステイナブルなビジネスの挑戦を心から楽しんでいました。

「うちは気持ちの良い空間を提供してるし、とてもおいしいコーヒーが飲めるんだ。あ、そうそう実はうちって(ホームレス支援っていう)クールなミッションも実践してるんだけどね」
(ホームレス職業訓練カフェ、Street Bean Espressoのマネージャー)

 Street Bean Espressoは、シアトル滞在中に私が10回以上お邪魔していたカフェです。つまり、ほぼ2日に一度はお邪魔している計算になります(笑)。雰囲気が良くて落ち着けて、電源とフリーWiFiが使えて、本当に美味しいコーヒーが飲めて、ビジネスマン利用の多いカフェでした。実はここがホームレス支援というソーシャルな取組みをしていると知ったのは、居心地が良くて気に入って、何度も通ったあとのことでした。シアトルはそんな風に、街中のふとしたところにソーシャルが自然にある街でした。

「きっと将来、例えば道を歩いてて偶然この銀行の看板を見た人は言うよ。"お!これがあの銀行か!知ってる?この銀行って、世界を助けてるんだぜ"ってね」
(エコでサステイナブルな銀行、One PacificCoast Bankの銀行員)

 One PacificCoast Bank は、SIISプログラムのうち、私がインターンシップでお世話になった銀行です。一緒に働いていたのは、「銀行の仕事を通じて世の中を良くしていく」という強い使命感を持ったバンカーばかりで、銀行業を愛する元銀行員としても、もしアメリカで銀行員をするなら是非ここで働きたいと思える素敵な銀行でした。

 そんな風に、SIISプログラムを通して出会ってきたシアトルのソーシャルイノベーティブな人たちは、自分たちの仕事に誇りを持って、やりがいを持って、思いっきり楽しんで働いていました。
 そしてまた、そんな魅力的な人たちと繋がるハブになっているiLEAPにも、やっぱり素敵な人たちが集まっていました。

「リレーションが世界を変えるんだ。頭の良い個人や、すごいビジネスモデルだけじゃダメなんだ。本当に社会を変えるものは、グローバルに人と人とが繋がって、リレーションをつくっていく先にあるんだ」

 それは、iLEAP代表のBrittの言葉でした。そしてiLEAPが、シアトル中の組織や、日本や世界中のソーシャル・リーダーたちと繋がって、ハブとなってリレーションを生み出して、彼らにポジティブな影響を与えている姿を見る度に、その言葉が幾度となく頭の中にフラッシュバックしました。

 私がSIISプログラムを通して学んだことは数え切れないほどあるのですが、でも何よりも私が参加して良かったと思っているのは、機会があれば是非多くの日本の学生・若手社会人にも参加してほしいと思っているのは、SIISプログラムに参加することで、こんな風にたくさんの素敵な人たちと出会う機会があったからです。そんな素敵な人たちと繋がりながら、刺激をもらいながら、お互いが"Who I am" を自覚した人生を送っていくことの魅力を知ってしまったからです。

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SIISプログラムを終えて ~ Social Innovativeな生き方を目指して ~
 医療・福祉をメインテーマに据えた今回の旅の途中で立ち寄ったiLEAPでしたが、少し自分のテーマから離れた1ヵ月を過ごしたことで、落ち着いてこれまでとこれからの自分自身について捉え直すことができたと思っています。私は、前職の銀行から医学にキャリアチェンジをしたことで、「これからは医療分野に特化していかなければならない」という強迫観念を心のどこかに持っていました。でも、SIISプログラムを終えて、「自分はこれからも、もっと自然体でいて良いのかもしれない」と考えられるようになりました。

 これまでも私は、学業の外側、仕事の外側で、何らかのソーシャルな活動には携わり続けてきました。将来の仕事を模索していた就活前後の頃(2005年~)には、「ソーシャルビジネスに取り組んで生きていく」という選択肢を確かに持っていて、NICEやETIC.といった日本の社会的組織と関わっていた時期もありましたし、銀行員になってからは、例えば縁もゆかりもなかった地域のお祭りを何年も手伝うようになったり、あるいは地域の商店街での読書会に深くコミットするようになったりしていました。

(ソーシャル×ビジネスの行方(個人的):ブログ記事http://ameblo.jp/mylifeasapig/entry-11281856486.html
(山形県赤倉温泉おさいど祭り:ブログ記事 http://ameblo.jp/mylifeasapig/entry-10437468894.html
(鹿児島天文館読書会TenDoku:ブログ記事 http://ameblo.jp/mylifeasapig/entry-10750873887.html

 SIISプログラムを通して、たくさんのソーシャルビジネス・ソーシャルイノベーションの現場を訪れて感じたのは、「ソーシャルはもう自分の人生の一部になっていて、本業が何であるかは関係ないんだ」ということでした。だから私はこれからも、これまでのように自分のできる範囲で「ソーシャルビジネス的に」「ソーシャルイノベーティブに」活動しながら生きていけば良いのだと、今は思っています。それは例えば、自分の住んでいる地域を盛り上げたり、何か地域課題があったらパッと解決に向けて動ける、そんな小さな生き方・在り方で良いと思うのです。そうして自分の中のソーシャルな意識を維持し高めていきながら、そこで出会っていくであろう一緒にいて心地良いソーシャルイノベーティブな人たちと繋がっていきながら、この人生を生きていきたいと思います。
 「ソーシャルビジネス」「ソーシャルイノベーション」は、私にとってそんな人との繋がりのハブであり、自分自身の生き方であり、マインドであり、在り方そのものでした。


(参考:NPO法人iLEAP http://www.ileap.org/

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※ 次回SIISプログラム日程
 4週間コース(主に大学生向け):2013年3月4日(月)~3月30日(土)
 1週間コース(主に社会人向け):2013年4月27日(土)~5月4日(土)
 プログラム詳細・申込:http://ryugaku.myedu.jp/ileap/
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以上、簡単ですがご紹介、ご報告になります。
プログラム中に各組織を訪問した際の感想や写真等については当方のブログ上に掲載しておりますので、ご興味のある方はそちらもご覧いただければ幸いです。
(参考:http://ameblo.jp/mylifeasapig/entry-11343355848.html

また、もし本記事をお読みになりご質問等ございましたら、わかる範囲でお答えいたしますので、気兼ねなくご連絡をいただければと思います。
(次回以降のSIISプログラムの予定や、参加に関するお問い合わせ等もウェルカムです)

連絡先:akihisa.tabi●gmail.com ←●を@に変更してください


プロフィール
2007年北海道大学農学部卒。有機農業2年・大手銀行勤務5年(札幌・鹿児島・福岡)を経て、現在は大分大学医学部医学科に在籍。銀行員時代の2008年、難病の子どもを対象とした子ども野外キャンプ(そらぷちキッズキャンプ)に参加しキャンプリーダーを務める。以降、同キャンプの参加を続ける中で医学の道を志し、2011年10月に銀行を退職し大分大学医学部に編入学。2012年4月から1年間休学し、日本中・世界中にある病気の子ども向け野外体験施設・医療施設・福祉施設等の視察・ボランティアの旅に出る。また旅に際して、BADO株式会社から「世界を旅するチェンジメーカー奨学生」として支援を受ける。将来は小児科医として働くとともに、病気の子どもを対象とした野外キャンプの実施や、子どもたちの居場所づくりについて模索中。

■「フロンティア・フォーラム」欄No.80:「子ども×自然×医療:銀行員は医師を目指して"旅人"になる」寄稿
http://japangap.jp/essay/2012/08/-2012-bado.html

■JGAP寄稿者短信:「病気の子どもと家族のための"滞在型アミューズメント施設"Give・Kids・The・World・Villageでの活動報告」
http://japangap.jp/info/2012/10/jgapgive-kids-the-world-village-where-happiness-inspires-hope-2012.html
■JGAP寄稿者短信:「世界で最初の小児ホスピス -英国ヘレン・ダグラス・ハウス- の視察報告」
http://japangap.jp/essay/2012/12/post-37.html

■JGAP寄稿者短信:「子どもたちのもうひとつの居場所 ~NPO法人フリーキッズ・ヴィレッジのこと~」
http://japangap.jp/essay/2012/12/post-38.html

Blog:http://ameblo.jp/mylifeasapig/
Facebook:http://www.facebook.com/akihisa.horigome
Twitter:https://twitter.com/akihisa_h
(注1)BADO!旅の企画書:http://www.bado.tv/cp2012s/view/49

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