代表ブログフロンティア・フォーラム

日本をよくする提言から多様性を高める主張、ギャップイヤー文化構築提案まで、
多種才々なイノベーター達のエッセイ集

【JGAP寄稿者短信"拡大版"】
「世界で最初の小児ホスピス -英国ヘレン・ダグラス・ハウス- の視察報告」
(大分大学医学部医学科・2012年度 BADO! 世界を旅するチェンジメーカー奨学生  堀米 顕久)
堀米さん写真Akihisa.jpgのサムネール画像


JGAPをお読みの皆さま、こんにちは。

 8月に「フロンティア・フォーラム」欄にエッセイを寄稿させていただきました、世界を旅するチェンジメーカー奨学生の堀米顕久と申します。

 病気や障がいを抱える子どもたちの居場所づくりを模索して、国内・海外の医療施設・福祉施設・野外体験施設等への視察・ボランティアの旅をしながら情報発信を続けていますが、今回はイギリスで訪れた、世界で最初につくられた子どものためのホスピス、ヘレン・ダグラス・ハウス(Helen & Douglas House)についてご紹介させていただきます。

1213堀米さん米国写真.JPG

世界で最初の小児ホスピス 英国「ヘレンハウス」の始まり
 ヘレンハウスは、1982年にイギリスのオックスフォードにオープンした世界で最初の小児ホスピスです。ヘレンハウスの歴史は、教会のシスターをしていたフランシス・ドミニカさんが、知り合いの親御さんから重い病気を抱えたヘレンという2歳の女の子を預かったことから始まりました。
子どもを愛する親としては、その子がたとえ重い病気を抱えていたとしても、家でケアをしながら一緒に過ごしたい・過ごしてあげたいと思うのはごく自然な感情だと思うのですが、でもそうなると親御さんは、昼夜問わず24時間その子のケアをしなければならないと同時に、他の子どもたちも育て、さらに働いて収入も得なければならないという苦労が重なっていました。
ヘレンを預かったシスターフランシスは、そんな親御さんの状況に気付き、彼らの苦労を少しでも取り除こうと、医療的なケアが必要な子どもを一時的に預かることができる施設として、小児ホスピスの設立を決意されたそうです。


ヤングアダルト向けの小児ホスピス「ダグラスハウス」の設立
 医療の進歩に伴い、過去には若くして亡くなっていた病気の子どもたちが、もう少し長く生きることができるようになってきました。ただ、16歳を超えてくると、小児を対象としているヘレンハウスの施設では雰囲気やアメニティ的にマッチしない部分があったのだそうです。
しかし一方で、従来の大人向けのホスピスは終末期の患者さん(主に高齢者が多い)が最後の時を過ごす場所という色が強く、ヤングアダルトの彼らや、彼らの両親のニーズには合っていませんでした。
ダグラスハウスDouglas Houseは、そんな彼らのニーズに応えるために、ヘレンハウスの理念・規模を拡大する形で、もう少し上の年齢層となるヤングアダルト(16歳以上)を対象として、2004年にヘレンハウスに隣接してオープンしました。
(そのため現在ではこの2施設を合わせてヘレン・ダグラス・ハウスと呼ばれます)


子どもたちのニーズに合わせた施設内のアメニティ
 ヘレンハウスでは、医療者以外にも多様なスタッフ・ボランティアが一緒に働いていて、ココに来た子どもたちが安心して楽しく過ごせるよう、病院のようではなく明るく温かく、開放的な雰囲気をまとっています。また同時に、他界してしまった子どもの家族、親御さんや兄弟児のココロのケア等も行なっています。

 一方でダグラスハウスは、スタッフ体制はヘレンハウス同様に様々な人が入っていますが、施設内にバーがあったり、ミュージックルームがあったり温水のジャグジーがあったりと、少し大人になった子どもたちのニーズに合わせたアメニティが整えられています。
施設内の雰囲気は、アットホームなヘレンハウスと比べるともう少し落ち着いた色調で、シックな雰囲気を纏っていました。

 それぞれの施設の滞在可能人数は実は意外と少なく、ヘレンハウスは8室(=8ベッド)、うち2室は緊急用に常に空けています。また、家族が滞在するためのファミリールームが別に4室あります。
ダグラスハウスは7室(=7ベッド)、うち1室は緊急用に常に空けていて、家族滞在用のファミリールームが別に3室あるそうです。

 十分なベッド数ではないようにも感じますが、人数が多過ぎると滞在している家族間のコミュニケーションが薄くなってしまうことから、あまり数を増やさないようにしているそうです。また、子どもたちは短期滞在が主でどんどん入れ替わり、さらに今ではヘレン・ダグラス・ハウス以外にもイギリス国内に小児ホスピスが存在しているので(イギリス には現在40以上の小児ホスピスがあります)、子ども・家族と相談しながら彼らのニーズに合わせた預け入れができているそうです。


「小児ホスピス」という施設の役割
 「ホスピス」という言葉から、私はこちらに訪問するまでは小児ホスピスのことを「余命わずかの子どもたちが、命を終えるまで過ごす場所」と想像していたのですが、実はこちらの利用者の大半は1日~5日程度の短期のレスパイト(一時的な休息)利用がほとんどだそうです。その他に、定期的にヘレン・ダグラス・ハウスを利用しながら自宅で過ごしている子どもが急変したときに訪れるケース(そのために上述した通りいくつかのベッドを常に空けています)、そして命が尽きるまでの最後のひとときを過ごすケースがあるそうです。

 現在イギリスには40を超える小児ホスピスがありますが、そのほとんどはヘレン・ダグラス・ハウスと同様レスパイトを主にしています。日本にも今年、日本で最初の小児ホスピスが設立されましたが、そちらもやはりレスパイトを主にしているようです。

 命の限られた子どもたちにとって、そして親御さんにとって、その子が最後の時を過ごすのは家庭で、家族が一緒に過ごせるのが一番なのだと思います。ヘレン・ダグラス・ハウスのような小児ホスピスは、家庭に代替する場所ではなく、レスパイト等の機会を提供することで家庭を補完する、支える役割を担っているのだと思いました。


ヘレン・ダグラス・ハウスのファンドレイズ
 ヘレン・ダグラス・ハウスでは、対象となる子どもと家族の滞在費は無料です。そしてそれはイギリスの他の小児ホスピスでも同様のようです。

 そんな施設の運営費は年間6億円に上りますが、その8割以上が民間からの寄付・チャリティで賄われているそうです。現金の寄付もあれば、チャリティグッズの寄付、チャリティグッズの購入と支援方法は様々ですが、ロンドンやオックスフォードで街を歩けばあちこちにチャリティショップを見かけ、週末には必ず歩行者天国や広場で、小さなものから大きなものまで様々なチャリティイベントが催されています。そしてそれらに対して、チャリティグッズを購入したり寄付をしたりするのがごく日常の生活の中にあります。

 私は、自身が元々金融畑にいたからということもありますが、ノンプロフィットの組織を訪れるとついつい資金調達、ファンドレイズについて意識してしまいます。人口の一定割合は難病を患う・障がいを抱える子どもたちがいるという現実は日本でも同じなので、日本でも同様の施設に対するニーズはあると思うのですが、寄付文化が欧米ほどには浸透していない日本で、いかに個人・民間セクターからの継続的・安定的な支援を獲得していくスキームを構築できるかが、日本でも同様の施設・事業を行なっていく鍵になるのだと思います。

(参考:ヘレン・ダグラス・ハウス http://www.helenanddouglas.org.uk/

-----

 以上、簡単ですがご紹介になります。
こちらではご紹介ということで簡略化していますが、もう少し個人的な感想を含めて当方のブログ上に掲載しておりますので、ご興味のある方はそちらもご覧いただければ幸いです。
(参考:http://ameblo.jp/mylifeasapig/entry-11425305531.html

 また、もし本記事をお読みになりご質問等ございましたら、わかる範囲でお答えいたしますので、気兼ねなくご連絡をいただければと思います。

連絡先:akihisa.tabi●gmail.com ←●を@に変更してください


プロフィール
2007年北海道大学農学部卒。有機農業2年・大手銀行勤務5年(札幌・鹿児島・福岡)を経て、現在は大分大学医学部医学科に在籍。銀行員時代の2008年、難病の子どもを対象とした子ども野外キャンプ(そらぷちキッズキャンプ)に参加しキャンプリーダーを務める。以降、同キャンプの参加を続ける 中で医学の道を志し、2011年10月に銀行を退職し大分大学医学部に編入学。2012年4月から1年間休学し、日本中・世界中にある病気の子ども向け野外体験施設・医療施設・福祉施設等の視察・ボランティアの旅に出る。また旅に際して、BADO株式会社から「世界を旅するチェンジメーカー奨学生」として 支援を受ける。将来は小児科医として働くとともに、病気の子どもを対象とした野外キャンプの実施や、子どもたちの居場所づくりについて模索中。

「フロンティア・フォーラム」欄No.80:「子ども×自然×医療:銀行員は医師を目指して"旅人"になる」寄稿
http://japangap.jp/essay/2012/08/-2012-bado.html

JGAP寄稿者短信:「病気の子どもと家族のための"滞在型アミューズメント施設"Give・Kids・The・World・Villageでの活動報告」
http://japangap.jp/info/2012/10/jgapgive-kids-the-world-village-where-happiness-inspires-hope-2012.html

Blog:http://ameblo.jp/mylifeasapig/
Facebook:http://www.facebook.com/akihisa.horigome
Twitter:https://twitter.com/akihisa_h
BADO!旅の企画書:http://www.bado.tv/cp2012s/view/49

記事一覧

フロンティア・フォーラムトップページへ戻る

アーカイブ