代表ブログフロンティア・フォーラム

日本をよくする提言から多様性を高める主張、ギャップイヤー文化構築提案まで、
多種才々なイノベーター達のエッセイ集

「3.11南三陸との対話~もう一つの家族への感謝」谷口さん写真.jpgのサムネール画像

谷口優太
明治大学商学部4年
HLAB東北2015実行委員長/元・きずなインターナショナル代表(3代目)/ワシントン大学留学中/@シアトル


「卒業式はあると良いね」

入学式中止の通知をパソコン画面で知った母は、すこし残念そうに、何度も呟くのだった。

「東京は地震で大変だろうけど、頑張ってね」

上京する前に大人たちは、励ましなのか、嘆きなのか分からないような餞の言葉をかけてくれた。「無くなった入学式は戻ってこないけど、実りのある大学生活する。きっと」という上京する日に自分と交わした約束は、未だに私の中にある初心を思い出させてくれる。


「困っているんです、力を貸してください」

ふと立ち寄った大学のボランティアセンターで出会ったのは、少し猫背の背中にダッフルコートを羽織った一人の学生だった。彼が「きずなインターナショナル(注1)」の前代表、日高雅人(注2)。まだまだ捨てきれない自尊心と、満たされない自己承認欲求を抱えていた19歳の自分は、母から常々言われていた謙遜さの大切さなど忘れ「できますよ」と、少し傲慢に返事をした。


「一度見てみたいから」

という、ボランティア活動にはありがちな理由で、足を運んだ南三陸。現地の人々と対話し汗を流す中で、命の儚さ、津波の恐ろしさを身を以て学んだ。東北と同じ海に面する三重県の漁師町で育った自分には、まるで、自分が信じていた自然が、ある日突然牙をむくように感じられ、他人事に思うことは出来なかった。
ただ、それ以上に自分が目の当たりにしたのは、そこで活き活きと生きている人たちの姿だった。


「若いやつには力を貸すっちゃ!それが年寄りの責任なんだっちゃ!」

と、いつも方言混じりに擦れたような声をかけてくれる南三陸の渡邊区長。「子どもたちがのびのびと遊べる場所を創りたい」という日高(前代表)の東北での原体験から始まった「南三陸さんさん公園プロジェクト」。困ったときや心が折れそうになったときには、いつも周りに支えてくれる南三陸の人たちがいた。「ボランティア」や「与える」という言葉に疑問を持ち始め、「自分のやりたいこと」や「共に創る」という言葉に置き換えていく自分がそこにはいた。


「まー、優太のお願いだったら、しかたないっちや」

と、強く厳しめの漁師言葉で自分たちを励ましてくれるのは、海産物店を営む金久さんや星さんだ。「大学生が頑張っているから」「自分の子どもや孫のためになるから」という思いに協力してくれる家族のような人々。東京への帰りの夜行バスではいつの間にか、「また行こう」という思いが「東北に帰ろう」に変わっている自分に気がついた。


夜中でも消えない役場の明かりは、ひたむきな姿勢と、諦めない気持ちの大切さを自分に教えてくくれた。
「東北を元気に!」と全国、全世界から集まる人々と一つのテントで過ごした時間は、理想ばかりを語る未熟者な私を少し大人に成長させてくれたと感謝する。


振り返ってみると、「グラウンドに行くのは、宿題をしてからね」

幼い頃から、家に帰ると小学校の先生だった教師の母親と、数学が得意な父親が仕事の合間を縫って、物分かりの悪い自分に宿題を教えてくれるのだった。
そんな幼少期を経て、自然と将来は教育に携わって生きていきたいと考えるように私はなった。

「すべては高校生に最高の夏を届けるために」

そんな言葉を渋谷のスターバックスでかけてくれたのは、自分よりも一回り若い野村善文(HLAB2014年度 東京実行委員長)だった。「高校生の多様な進路選択をサポートする」という格好いい理念ではなく、彼の「僕、高校生でサマースクールに参加して、人生変わったんです。なんで、せんとさん(私のこと)の力を貸してください,一人でも多くの高校生とそういう場を創りたいんです」という真っすぐで不器用な言葉には、大学4年の最後の夏を預けるだけの何かがあると直感的に感じたのかもしれない。

「多様性の中に、学びが生まれる」

18年間、美しい海と、豊かな山しかない町で育った自分には「多様性」という言葉や「新しい価値観に触れる」という言葉は正直ピンとこなかった。ただ、同じ時間に礼拝をするムスリムの友人や、食べきれないほど出されたピザを残さず食べるパキスタンからの難民の友人は、書物で知るよりもそれを雄弁に語ってくれる。
「多様性を理解する」とは、それをただ「受け取る」ことではなく、その違いそのものを認識し、それに「感謝する」ことなのかもしれない。私は彼らと今生活できることに心から感謝している。
震災で「失われたもの」は沢山ある。でも、今の東北に「あるもの」はなんだろうか。現地の人は皆、口を揃えて「新しく、いままで東北にいなかったような人が、全国から全世界から入ってきた」と言う。年齢、国籍、宗教の壁を超え「少し、背伸びをすれば届きそうな存在」と自分の生き方やあり方について対話をする機会は、高校生にとってはとても貴重なのだと思う。


「すべては東北のために、すべては高校生のために」

そんな背景から今年の夏、私はHLAB東北のサマースクールを開催する。一人でも多くの高校生に、自分と向き合う場を提供し、若者の力で東北を盛り上げたい。
それが今の私の思いだ。


「出会いを通して、自分に出会う」

これは、自分と同じように大学時代を東京で過ごしている祖父から上京の際に贈られた言葉だ。「グローバル」や「インターナショナル」などという言葉の本当の意味は、現在留学している中で自分が間違いなく経験し学んだことなのかもしれない。しかし、休学し少し俯瞰して自分を振り返る中で私が感じることは、これまでの自分がどれだけ周りの人に恵まれていたかということだ。人とは、多くの人と出会っていくなかで、成長し、少し時間が経ってその成長した自分に気がついていくのかもしれない。

ワシントン大学では、マネージャーとして大学のソフトボール部に所属しながら毎週末、全米各地に遠征している。本当に多くの学生と対話する機会に恵まれている。今は、日々英語に悪戦苦闘しながら夢中になっているので、周りに目を向けるだけの余裕はまだない。だた、少し先の将来には分かるだろう、「今の大切さ」をよく考えて、周りの人との出会いに感謝したい。


休学というわがままを受け入れてくれた家族や、自分のことを育ててくれた南三陸の家族に感謝し、残りの学生生活を送りたい。

 3/11/2015


(注1)
きずなInternationalは2011年5月に設立された東北の復興支援を目指す学生団体。海外からの留学生に東北の現状を知ってもらうことや、ボランティア活動を通じた日本人学生との文化交流を目的としています。宮城県を中心に、公園を創るプロジェクトや現地でのお祭りやイベントを主催しています。また、東京では写真展などで、震災後の風化防止活動を行なっています。

(注2)
2014年3月11日付
No.158:「誰かのためではなく、あの人・あの土地のために~僕らが公園を造れたワケ」(日高 雅人 明治大学在学中 きずなInternational 2代目代表)-エッセイ集 フロンティア・フォーラム http://japangap.jp/essay/2014/03/-international.html

プロフィール:
谷口優太
明治大学4年時に、休学。現在米国・ワシントン大学に私費留学中。
ツイッター:谷口優太(@yuta1667)
フェイスブック:谷口優太(https://www.facebook.com/yuta.taniguchi.98

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