代表ブログフロンティア・フォーラム

日本をよくする提言から多様性を高める主張、ギャップイヤー文化構築提案まで、
多種才々なイノベーター達のエッセイ集

「監査法人辞めて、なぜソーシャル・ベンチャーなのか?」


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高井 辰憲
株式会社テーブルクロス取締役

 私は京都大学在学中に公認会計士試験に合格し、卒業後は監査法人で勤務を開始しました。監査法人とは、主に上場企業の財務諸表の監査を行う法人であり、金融市場の社会的信頼性を担保することを使命としています。私も入社後は上場企業の監査を担当していましたが、自身の専門性を活かしもっと社会に貢献してみたいという思いが強くなり、入社して一年で一度辞表を提出しています。

非常に多くの会計士の方がクライアントのために働いていることを理解はできますが、私は監査よりも企業の経営をサポートする仕事を行いたいと考えておりました。そういった思いを監査法人で伝えたところ、財務アドバイザリー事業部への異動を打診され、監査から離れ企業再生に従事することとなりました。


プロボノとは「スキルの社会貢献」で、「時間の社会貢献」であるボランティアと対比
 企業再生業務では個人に与えられる裁量が大きく、債権者との交渉や事業計画策定までもほとんどのことを任されていました。自身の専門性を活かし企業のサポートができる環境に大変満足しており、退社の意思は全くありませんでした。

ただ企業再生業務は1社にかける期間が数ヶ月に及び、生涯を企業再生にかけても支援できる企業の数が限られていると感じ、監査法人の業務以外にも活動の幅を広げようと思い、プロボノ活動にも参画するようになりました。プロボノとは「スキルの社会貢献」で、「時間の社会貢献」であるボランティアと対比されます。専門能力を持った者が自身の専門性を活かしてソーシャルセクターに対して支援を行うものです。私も会計や財務の専門性を活かし、NPO等の支援も行いたいと考えておりました。

 どういったソーシャルセクターの支援を行おうかと考えてときに真っ先に思いついたのが、"レストラン予約無料アプリ"のテーブルクロスでした。テーブルクロス代表(注1)とは元からの知り合いであり、いわば「社会起業」に身を投じたと聞いていたので、NPO等の法人よりは株式会社の支援の方が自らの専門性を活かしやすいと思いました。代表にすぐに連絡を取り、お手伝いさせて欲しいと伝えると受け入れられ、プロボノ活動を実施することになりました。

 ところが、プロボノを行うにあたり、会社概要を代表から聞いたところ、テーブルクロスのそのビジョン、目指すゴールにとてつもない価値があると感じ、雷に打たれたような衝撃が走りました。その後すぐにテーブルクロスへの入社の意思を伝え、監査法人を退社し、テーブルクロスの役員へと就任しました。


監査法人辞めて、なぜソーシャル・ベンチャーなのか?!
 なぜ私が監査法人を辞めてソーシャル・ベンチャーに入社したのか。関連してよく聞かれる質問は2点です。2年しか監査法人で働いてないのに独立して大丈夫なのかということ、せっかく監査法人に入ったのになぜ、ソーシャル・ベンチャーに行くことにリスクは感じなかったのかということです。

 まず実務を2年しかしていないので能力的に十分なのかについてです。もちろん十分な実務経験を満たしていないとは思います。ただ前のまま監査法人で働き続けることでベンチャーで活躍できるスキルが身につくとは限らないとも考えました。ベンチャーで働く方が他人任せにせず自分で解決しなければならない問題も増え、嫌が応にも技術やマインドを身につけなければならない環境にあります。そのような環境の中で、もがきながらも努力を続けていくうちに業務はできるようになると信じます。そもそもこれまでも、"不確実な"大学受験や会計士受験といったライフイベントに十分な準備はしてきており、完璧を待って行動しないほうが必要な能力は後天的に身につくと思います。

 さて、一番よく聞かれることはリスクについてです。たしかに一般企業からベンチャーに転職することはリスクが高いと考えられています。ベンチャーはリソースがほとんど足りませんし、スタートアップ時期など、事業も安定していないケースがほとんどです。ただもし自分が本当に挑戦したいことがあるのであれば、収入や身分の低下を気にして挑戦しないことの方が、私は人生におけるリスクが高いのではないかと思いました。今まで様々なことに努力してきたのは安定した生活を送るためではありません、自分の望む未来を自分で切り開いていくためなのです。

 この2点が自分の中で"腹落ち"していたため、私はすぐ行動に移ることができ、監査法人を退社して、ソーシャル・ベンチャーにまい進することとなりました。

 それは、換言すれば、テーブルクロスが株式会社で、社会的課題をビジネスの手法で解決しようとするソーシャル・ベンチャーであったからこそ、入社を決意したともいえます。テーブルクロスが単なる"運動体"であるNPOであれば入社していなかったと思います。

 NPOではスキル以上にマインドが重視されると感じ、本当に実現させたい理念があるというマインドを持ち合わせていなければNPOにフルコミットはできないと思いました。従って、NPOに対しては今後もプロボノを通じて支援を継続していければと思います。


レストラン予約無料アプリ「テーブルクロス」の可能性
 テーブルクロスは株式会社であり、営利を目的のうちの一つとしつつも、社会に対して非常に大きなインパクトを発揮できるのではないかと感じました。テーブルクロス・アプリはユーザー(レストラン予約者)は無料で利用できますが、そのアフィリエート収益で途上国に給食を支援することができます。日本人は寄付文化が希薄とよく言われていますが、テーブルクロス・アプリが広く浸透すれば、寄付が一般的となり、多くの想いを持ったNPO等に支援が可能となり、素晴らしい社会が形成させるのではないかと考えます。

 また飲食店に対しても通常の広告とははるかに安価な広告費を提示しており、その広告費の一部が途上国の子どもたちの給食になることについて食に関わる飲食店にとっても有益なものだとも思います。そして途上国の子どもたちは給食が支援されて勉強する機会が与えられ、学校での勉強を活かして未来を切り開いていくことができます。

 このようなソーシャル・ベンチャーが成功を収めることができたなら、今後も多くの起業家が社会起業を目指すようになり、ロールモデルとなって、よりよい社会の形成が加速していくのではないかと信じます。最後になりましたが、テーブルクロスがソーシャル・ベンチャーとして成功できるよう、今後も何卒ご贔屓にしていただければとお願いする次第です。


(注1)
2014年11月28日付
No.193:「途上国の子供たちに給食を提供する新ビジネスを立ち上げました!」(城宝 薫さん、立教大学3年=株式会社テーブルクロス代表取締役)-エッセイ集 フロンティア・フォーラム
http://japangap.jp/essay/2014/11/post-88.html


プロフィール:
高井 辰憲 Takai Tatsunori
株式会社テーブルクロス取締役

公式WEBサイト:http://www.tablecross.com
公式Facebook:https://www.facebook.com/tablecross
公式Twitter:@tablecrossvol

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