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JGAP寄稿者短信"拡大版":「旅から学んだ大切なこと~『深夜特急』のメッセージと感謝」田中さんテニス1.jpg

田中 隆彬
武蔵大学経済学部 4年次休学中 ※世界一周から帰国


 
 8ヶ月間に及ぶ世界一周が遂に終わり、帰国して早くも1ヶ月が経とうとしている。帰国直後は日本に帰ってきたという気が全くせず、次の国に到着した気持ちになっていた。だが、バスに乗車し最寄り駅に着くとそこには馴染み深い光景が目に入ってきた。次第に帰ってきたという実感が湧き、家に到着して家族の「おかえりなさい」を耳にした途端、両肩に乗っていたバックパックではない重みが全て吹き飛んだ。「帰ってきたんだ!」という実感がそこにはあり、、夢から覚めたのだと思うと身体の力が抜けていった。

正直に言って、僕の旅は全てが楽しいものではなかった。むしろ何回恐怖を味わったことか思い返しただけで今でも身体が震える。強盗に何度もあったり、現地人に連れられて田舎にある家に招待されたかと思いきや金を巻き上げられて、家や村から出られない始末、挙げ句の果てにタクシーに乗れば事故を起こしたり、6針を縫う怪我もしたりとハプニングに巻き込まれたことか計り知れない。特にバングラデシュで遭った睡眠薬強盗は身に堪えた。

 日本で仕事をしていた写真を見せられて完全に現地人を信用してしまった僕にも非はあるかもしれないが、そんなものは実際に誰かと遭遇してみないと分からない。自分がいつの間にか入院していて、 死にかける寸前までいっていたなんて当初は全く想像していなかった。もちろん僕も全ての人を信用しているわけではなく、人を選んだ上でこういうことに巻き込まれてしまった。心の交流を図るフレンドリーな旅を希求していたのに、それをいつの間にか拒否してしまった部分もあり、自分の弱さもあろう。

だが、全体としてみると僕に接してくれたバングラデシュ人は、街を歩けば僕に優しく声をかけてくれた。食堂に出向けばチャイを奢ってくれた。歩けないほど周りを囲まれながらも街を案内してくれた。言葉は通じなかったが、殆どのバングラデシュ人が僕を歓迎してくれた。しかし、事件後は彼らを恐れてしまって全く交流しない時期があったので、それが実に勿体ないと後悔している。もしかしたら、人生の転機があったかもしれない折角の機会を失ってしまったと思うと、とても悔やんでもいる。

http://www.bd.emb-japan.go.jp/jp/safety/anzen240714.html
※上記のURLに僕が遭った睡眠薬強盗の詳細が掲載されている。
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 そんな中、退院後に読んでいた沢木耕太郎さんの『深夜特急』に、「旅先で出会う人を必要以上に警戒しない方がいい。その人が悪人で、君たちをだまそうと近づいてくる可能性がまったくないわけではないけれど、それを恐れて関わりを拒絶すると、新しい世界に入ったり、経験をしたりするチャンスを失ってしまいかねない」という文章を見つけた。

 この時に僕ももちろんこのまま旅を続けていれば恐怖を再び味わうかもしれない。だけどそれは実際やってみないと分からない。最初から出会いを拒むのは僕にとって旅をしていても無意味だと思い、日本に一時帰国せず旅を続けた。

旅に出発する前はただの物静かな何処にでもいそうな大学生だった。こんな異国の地で強盗に遭っても旅を続行しようとする勇気が僕の何処にあったのだろうと自問自答したが、その答えはすぐに出た。もちろん「自分を変えたい」からというのもあった。日本から苦労して持ってきたたくさんのテニスラケットとボールで、いろんな人々と交流したいという気持ちも強かった。

 だけど、自分の背中を押し続けてくれたのは、他でもない家族や日本にいる友達からの応援メッセージだった。それが僕にとって凄い励みになった。何よりここで旅を止めたら期待してくれている皆さんにも申し訳ないと思い、一時帰国せずに世界を見てくることができた。僕はこの旅で世界中の人々と出会っただけでなく、日本で僕の帰国を無事に願ってくれていた家族や友達がいることの有り難さ、大切さを身を持って感じた。それは感謝してもしきれないほど大きなものだった。

帰国後、多くの人々に会いお礼を言った。僕は大切な家族や友達がいなかったら、心が折れて旅はとても続行できなかったと思う。僕の背中を押してくれたみんなには、本当に感謝している。僕は旅中は1人だったかもしれないが、実際には1人ではなかった。1人ではこの旅は成立しなかった。改めてみんなにお礼を言いたい。本当にありがとう。
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さて、 現在、僕はテニスウェアを脱ぎ捨て、代わりにリクルートスーツを着て、テニスラケットではなく黒光りしているペンを握りしめて就職活動に励んでいる。来月からは大学に復学し、いつもの日常生活に戻る。だが、僕に残された学生生活はあと1年だ。僕は残された期間で経験したことを皆に知ってもらおうと、何らかの形で発信していこうと考えている。僕が遭遇した数々の事件・事故から、テニスをしながら世界一周というあまり多くはいないであろう僕らしいスタイルで旅が出来たことはもしかしたら次の人に役立つかもしれないからだ。実際にテニス関係の人々から自分もテニスをしながら世界を見たいという声を頂いた。また、僕と同じ吃音症(きつおんしょう)で悩みを抱えている人たちのために、ソフトテニスを世界中に普及していくためにも、数々の経験を発信していきたいと考えている。


プロフィール:
田中隆彬
武蔵大学経済学部4年次休学中 世界一周から帰国
Twitter:takakuro79
Facebook : Takaaki Tanaka
Blog: http://monkeytakaaki.dreamlog.jp

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2014年9月2日付
No.182:「 過去の自分と断ち切るため、ソフトテニスで世界一周を!」(田中 隆彬さん、武蔵大学経済学部 4年次休学中@世界一周中-エッセイ集 フロンティア・フォーラム http://japangap.jp/essay/2014/09/-4-3.html

2013年1月19日付
No.102「僕が世界中で"ふんどし"になるワケ」 長谷部和希さん(武蔵大学社会学部メディア社会学科3年 ※当時)
http://japangap.jp/essay/2013/01/post-40.html

2012年6月8日付
No.69:「『生き方』を変えていく旅~3月11日生まれの僕」 白井耕平さん(武蔵大学人文学部=2年次休学中 ※当時、世界一周中)
http://japangap.jp/essay/2012/06/311.html

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