「大学生はモラトリアム。人生で唯一、何もしていなくても、何をしていても、いい期間」
加藤順彦ポール
エンジェル事業家 LENSMODE PTE LTD/関西学院大学商学部 非常勤講師)
僕の大阪の実家は、第二次世界大戦後、間もなく創業した鋼材の特約店でした。
新日鐵や日本鋼管が造った、主に建設等に使われる鋼材を三菱商事や住友商事から仕入れて、それを工務店やゼネコンに売る、倉庫業と小売業のような業態でした。
僕は創業者の長男(2代目社長)の長男(跡取り)といった生まれだったので、小学校の頃から漠然とですが、将来経営者になるんだ、という意識がありました。だから大学受験も、商学部、経営学部がメインで、大学に入ったら経営の勉強をしよう、とか真面目に思っていました。ところがケインズを読んでも実際の商いには何の役にも立たないことに、入学してから気がつきました。
入学早々、五月病になってしまいました。
そんな日のことです。
「大学生の4年間はモラトリアム。人生で唯一、何もしていなくても、何をしていても、いい期間なんや」
僕はこのコトバを、大学のサークル新歓説明会場で、そのへんのセンパイから聞かされ、ハンマーで殴られたよな衝撃を受けました。
そのサークルにはなんの興味もありませんでしたが「モラトリアム」というコトバに無性に惹かれ、そのまま立ち止まって、他の学生に熱心に説明するそのセンパイの同じ話を繰り返し、立ち聞きしていました。
モラトリアム(moratorium)とは「しばらくの間やめること」を意味します。
元来は金融法律用語で、戦争・恐慌等の非常時に社会的混乱を避けるため「金銭債務の支払いを一定期間猶予すること」を指します。それを心理学者エリク・H・エリクソンという人は『大人になるために必要な猶予期間』と概念定義していました。